定年後は悠々自適ーーなんて人はいまや少数派。60歳を過ぎても引き続き今の会社で働きたい、いや働き続けなければならない。多くの人がそう感じているのではないか。
なにより老後資金の不安がある。公的年金の支給開始年齢が70歳近くに引き上げられる方向で進んでいるのだ。2018年6月に発表された政府の骨太方針(経済財政運営と改革の基本方針2018)に「65歳以上への継続雇用年齢の引き上げに向けて環境整備を進める」ことが盛り込まれた。年金支給年齢の引き上げを前提に、政府が法定定年年齢を65歳に引き上げる公算が大きい。
すでに高齢者雇用安定法には、65歳までの雇用確保義務が明記されている。企業は定年の廃止、定年延長、再雇用制度の3つから選ぶことになるが、多くの企業が導入しているのが再雇用制度だ。実際、8割以上の人が定年後も再雇用で働いている。
また、65歳まで定年を延長する企業も増えている。65歳定年制を導入した大手機械メーカーの人事担当役員は「さらには70歳雇用が当たり前になります。そうなる前に今から準備している」と明かす。
だが、定年延長や再雇用で60歳以降もなんとか逃げきれると考えていたら大間違いだ。現実はそれほど甘くはない。再雇用者の平均年収は約344万円(産労総合研究所調査)と現役時代の半分程度に下がるうえ、役職も外れ、仕事の中身も現役社員のじゃまにならない程度の補助作業というのが一般的だ。会社に残るのもラクじゃないのだ。
それでも、今はまだいいほうかもしれない。大手食品会社の人事部長は、今後はさらに厳しくなると言う。
「65歳まで再雇用するのも大変なのに、65歳定年になると、当然人件費は増えます。今の再雇用者は毎年50人から60人程度ですが、その下の世代のバブル期入社組が多く、4、5年後は毎年数百人単位で増えていく。会社の体力が5年後も続くかはわかりません。事業が縮小すると雇用するのも厳しくなります」
建設関連企業の人事部長は50代を対象にしたリストラさえにおわせる。
「これまで法律があるから仕方なく福祉的に雇ってきた再雇用社員はお荷物扱いされるでしょうし、場合によっては60歳以降も残すか早い段階で選別し、残さない人は退職してもらうことも考えないといけなくなるでしょう」
再雇用も定年延長もあてにならないとなれば、今の会社にお荷物扱いされてしがみつくより、思い切って転職することも選択肢のひとつ。事実、50代の転職者は着実に増えているのだ。