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絶対に首を切らなかった日本の「名経営者」(8)御手洗毅
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2018.10.15 11:00 最終更新日:2018.10.15 11:00
アパレル大手の三陽商会が3度目のリストラをしたり、大正製薬が創業以来初めてリストラしたりと、相も変わらず、リストラのニュースが流れ続ける。
かつて、日本企業には「絶対に首を切らない」と宣言した数多くの経営者たちがいた。そんな名経営者たちを紹介していこう。
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「利益は上がらなくても終身雇用を守り、余剰人員を抱えて、株主にはわずかな配当で我慢してもらう。キヤノンの社是は人間主義。これが創業のポリシーなんです」
これは、キヤノンの会長だった御手洗冨士夫氏が終身雇用をテーマに語ったことだという。
御手洗氏といえば、かつて日本経団連会長として他の財界首脳らとともに官邸に赴き、麻生太郎首相(当時)と会談。「雇用の安定に協力する」と表明した舌の根の渇かぬうちに、キヤノンで働く派遣社員の契約解除、いわゆる「派遣切り」を決めるなど、その二枚舌ぶりが批判されたこともある。
同一人物の発言とは思えないが、冒頭の発言の理由を、経営評論家が明かしてくれた。
「御手洗氏の言葉は、彼の叔父であり、キヤノン創業者の一人である故・御手洗毅氏のものなんです。今では一般的な週休2日制も、1959年に毅氏がキヤノンでいち早く導入したものです。
家族主義を掲げ、仕事を早く終えて家に帰ろうという、ゴー・ホーム・クイック(GHQ)運動を始めるなど、毅氏はとにかく家庭第一、家庭あっての仕事という考え方の持ち主でしたから、一家を路頭に迷わせる可能性がある人員整理などもっての外という経営者でした」
もし毅氏が存命なら、派遣切りなど、キヤノンでは絶対になかったと、この経営評論家は断言するのである。
「御手洗冨士夫氏は、毅氏の薫陶を受けた賀来龍三郎前会長が帝王学を授けた御手洗肇前社長の急逝で社長の椅子が転がり込んできただけ。悲しいことにキヤノン社長になるための準備をする機会がなかった。
さらに、米国生活が長かったため、米国の利益第一主義、成果主義をよしとして、キヤノンの伝統である家族主義を完全に破壊してしまったのです」
草葉の陰で毅氏が嘆いているはずだ。