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力士の髷はどうやって作るのか「床山」神の技術の真髄を見た
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2018.11.12 16:00 最終更新日:2018.11.12 16:00
力士の象徴といえる「髷(まげ)」を結う専門職、床山。キャリア36年目の中川部屋所属「一等床山」である床仁さんに密着し、いつも力士のすぐそばに寄り添う、床山の仕事に迫った。
「顔つくんな、顔つくんな」
髪をいじられているところにカメラを向けられ、力士たちは互いをからかい、笑いあっている。雑談したり水を飲んだり、リラックスした様子だ。
「よーし、大銀杏、どっちが先に終わるか勝負な」
頭のてっぺんの髷の先を、銀杏の葉の形にした「大銀杏」。十両に上がると許される関取の髪型で、取組後は普通の「丁髷(ちょんまげ)」に結い直す。
例外は幕下以下の力士が十両と対戦するときで、上位の者への敬意から大銀杏に結う。
床仁さんは微笑みながら、てきぱきと作業を進めていく。まずは髪によく水をつけて丁寧に揉む。
次に缶に入ったワックスのようなものを手で練り、揉み込んでいく。「すき油」だ。独特の芳香がこちらまで漂ってくる。櫛をかける。何度もかけているうちに美しい艶が出てくる。
一般には「鬢(びん)付け油」ともいわれるが、「すき油」が正しい呼び名で、髪を梳く油のことである。現在、力士が使うすき油は、東京都江戸川区の島田商店が作る「オーミすき油」だけ。
原料は和ろうそくにも使われる「モクロウ」と粉末のバニラ、数種類の香料。モクロウを、火にかけたヒマシ油とナタネ油の中で溶かし、冷めてから香料を加えて成型する。力士の独特の甘い香りは、このすき油によるものだ。
「美容師と違うのは、鏡がないことでしょうね。髪型を前から見られないんです。だから手で覚えていくというか、そういう感覚でやります」(床仁さん、以下同)
実際に作業中、床仁さんは一度も力士の前に回らなかった。必要がないのだろう。
「一回だけ綺麗に作るのは、そんなに難しくない。何回もやるのが大変なんです。その日の天気にもよりますから。昨日なんか炎天下でやったけど、油が溶けちゃうんですよ。
かといって寒いと髪がゴワゴワしてしまってやりにくい。湿度によっても変わります」
全国を回り、四季を通して行う相撲に、床仁さんは同行する。
「お相撲さんによっても全然違いますね。たとえば安美錦関とか、髪が細い人は形にするのが難しい。頭の形、髪質、量、一人一人違う。その日の体調によっても違います。張りや艶が違うから、調子がわかりますね」
その時々で調子がいい力士、悪い力士。新しく入ってきた力士、長い付き合いの力士。彼らとともに日々を過ごす。
櫛が終わると「元結い」という紙の紐で縛る。この位置を決める「根揃え」という作業がとても重要だという。両手で紐を髪に巻いて結びつつ、歯で紐の端を嚙んで押さえる。だから、床山は歯と顎が丈夫でないといけないそうだ。結び終えるとパチンと握りばさみで切った。