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吉田戦車、盛岡の朝市で「福田こうへい」の缶詰を買う
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2018.11.14 11:00 最終更新日:2018.11.14 11:00
10月初旬の連休、恒例の「SAVE IWATE」マンガ家ツアーで、岩手県に行ってきた。深刻な災害続きの日本だが、2018年の岩手では、踏み抜き防止の鉄板を入れた長靴をはくような作業はせずにすんだ。
マンガ家やマンガ関係者10数名が関東、北海道から集まり、釜石で草取りの手伝い(私はその晩に合流)、2日めは宮古のイベントでチャリティ似顔絵描きをした。
最終日は盛岡「ふっこうふれあい祭り」で同様のお絵描きイベント。
前夜は宮古で買いこんだ魚介類で宴会だったが、ほぼ全員、6時前に起床した。「神子田の朝市」に向かうためである。2011年から盛岡に宿泊する機会が増え、この朝市の存在を知った。私は4、5回めの訪問になるだろうか。
近在の農家の人たちが、天幕が並んだエリアに農産物を並べる、たいへん魅力的な産直市場である。大規模な青果市場ではなく、地元の人や観光客を相手に成り立っていて、まだ品物が豊富にある6時あたりがすごく楽しい、とされている。
時期的にハウス栽培と思われるトマト、ナス、キュウリなど夏野菜と、リンゴなどの果物、里芋、キノコ類など秋の作物が混在していて、たいへんにぎやかだ。
買い食いも、すいとんなどおいしいものがそろっている。メンバーの何人かは、名物「朝市ラーメン」を食べていたが、宿(地元の関係者宅に世話になっている)に戻れば前日の残り物で作った味噌汁などがあるので、「味噌漬けおにぎり」を一個買うにとどめる。100円。
おじちゃんが「芋の子汁にすっと、最高だよ」と売っている採れたての山のキノコなど、そそられるものはたくさんあるのだが、旅先なのでなかなか買うまではいかず、コーヒー150円をすする。
自家製漬け物も多い。丸一日持ち歩いても平気そうな、小さいプラカップのものに目をつけた。おばちゃんに「これなんですか」と声をかける。シソの実にきざみショウガをまぜた塩漬け、ということだった。ご飯が進みすぎるヤツだ。150円。
もう一つ、市場を2周ぐらいしながらチラチラ目に入っていたものがある。缶詰だが、一瞬、なんの缶詰だかよくわからない。
カニのような赤い服を着た人物写真がデザインされている。いわゆる「顔ジャケ」商品か。
手書きのPOPでその疑問は消えるのだが、岩手が誇る演歌歌手、福田こうへいジャケットの缶詰であった。中身はなんだ、歌か? シングルCDが、パイナップル缶のように重なって入っているのだろうか。
答えは、「岩手缶詰株式会社」のさんま水煮。大型缶410グラムの、東京でもたまに見かけるおなじみの中身だった。店のおばちゃんに「福田こうへい1個もらいます」と、450円を手渡す。
同行者たちに見せたら、一人「母がファンだ」と購入したので、経済効果はあった。
よしだせんしゃ
マンガ家 1963年生まれ 岩手県出身 「ビッグコミックオリジナル」で『出かけ親』、「ビッグコミックスピリッツ」にて『忍風! 肉とめし』を連載中。妻はマンガ家・伊藤理佐さん。近刊に『忍風! 肉とめし 1』『来れば? ねこ占い屋』(ともに小学館)。本連載の単行本が絶賛発売中!
(週刊FLASH 2018年11月20号)