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「身につけるべき3つの考え方」を東洋思想の研究者が指南

ライフ・マネー 投稿日:2018.12.30 11:00FLASH編集部

「身につけるべき3つの考え方」を東洋思想の研究者が指南

(写真:AC)

 

 青年期に身につけるべき、思考能力の鍵は、「根源、長期、多様」です。私がどのように、この根源的思考、長期的思考、多様性の思考の力を鍛えたのかを話しましょう。

 

 若いころ、中国古典を勉強しようと決意したとき、まずは取り掛かりを指導してくれる先生を探しました。探し当てて、「教えてください」とお願いに行ったのですが、「教えられない」と断られました。

 

 

 当時私は31歳か32歳だったのですが、「若い人ならともかく、その年からじゃ無理だろう。まして、できたらこれで仕事ができればなんて、そんな生易しいものじゃない」と言って怒られた。「人生を何だと思っているんだ」とね。

 

 ケチョンケチョンにけなされて家に帰りました。しかし、それでもやらなきゃ、と思って、「もう一度会ってほしい」とお願いしました。

 

 会ってもらったときに、「それでも教えてほしい」と食い下がる私に、先生が「では、試験をしよう」と言う。「東洋的視点というのがある。それを身につけてくること」と言うのです。

 

「どのくらいで身につくものですか」と聞くと、「少なくとも1年はかかる」とおっしゃる。「1年後に会おう。この試験に合格したら指導しよう」と言うのです。「それがないと教えてもらうことができないのですね」と言ったら、先生はこう言いました。

 

 たとえば、「学びて時に之を習ふ。亦説ばしからずや」という『論語』の有名な言葉がある。ただ言葉を訳しているのでは、正しいアプローチとは言えない。これはいったい何のことをいっているのか、もっと深いところではどうか、広い視点で見るとどうなのか、そういったものが想起されなければ、漢文なんて読めない。いまはその能力がないだろうから、1年間でそれを身につけてきなさい。そうしたら指導しよう、と。

 

 そこで、私が「わかりました。で、その東洋的視点とは何ですか?」と尋ねたら、「根源、長期、多様。それが東洋的視点だ」と言う。

 

「わかりました。で、それらを身につけるにはどうしたらいいんですか?」と聞くと、「それは簡単なことだ。今日からずっと、根源、根源、根源と考えること。新聞の記事を見ても、この根源は何かな、テレビを観ても、この根源は何かなと考える。一事が万事、全部根源を探っていくことを続ける」。

 

「それはいつまで続ければいいのですか」と聞くと、「だれか他の人が、『あなたはずいぶん根本的に物事を考えるんですね』と言ったら、次の『長期』に移ってよい。他人からそういう人だと思われるほどにならなければ意味がないから。3カ月ぐらいはかかると思ったほうがいい」と言われました。

 

 そこで、やりました。ばかみたいに。「根源」と書いた紙を部屋中に貼って、どこを見ても「あ、根源だ」と。手帳を見れば「根源」と書いてある。いつも、根源、根源、根源と考えるようにしました。

 

 そのうち、会議である人が、「この間からずっとあなたの意見を聞いているけど、ずいぶん根本から考えているのですね」と言ってくれたのです。3カ月くらいと先生には言われたけど、半年くらいかかりました。
 


 それで、「長期」に移りました。長期というのは歴史的な視点だから、歴史がものすごく気になる。だから日本史、中国史、朝鮮史と勉強しますよね。

 

 そうしていると、思考も発言も、「歴史的に見たほうがいいんじゃないですか」とか「歴史的に言いますと」となってきます。そうしているうちに、「あなた、ずいぶん歴史に詳しいんですね」と言われた。これでよし、です。

 

 最後は「多様」です。

 

 根源的思考というのは、深く深く行く「深い思考」ですよね。長期的思考というのは、時間軸を広げた「広い思考」です。「根源」と「長期」ができるようになっていれば、瞬間的に広く深い思考になる。そうすると、嫌だと言っても思考が「多様」になるのです。

 

 その先生には1年後に会いました。何とか合格したのだと思います。何も言われませんでしたから。それでそのあと2年くらい指導してもらいました。

 

「根源、長期、多様」な思考能力は、どこでもすごく役立ちます。

 

 当時、私は社長のアドバイザーというのをやっていました。日本を代表するような大会社の社長がアドバイザー役を選ぶとき、百戦練磨のコンサルタントやその会社の名うての俊英などが5、6人集められて、試験を受ける。社長からバンバン問いが飛んできます。

 

「今回うちで不祥事があったよね。このようなことが起こらないように、どこに注意して対処しておくべきか、端から挙げよ」というような試験です。

 

 そう問われて、最初に、同じくらいの年齢で、いかにも頭の切れそうな俊英が、「私、30出せます」と言った瞬間、「あ、勝った!」と思いました。

 

 こちらは80くらい浮かんでいるからです。そういう人はいませんでしたね。それは、「深く広い思考」ができたからです。「こういうところがあるな」「こういうところもあるな」というアイディアが深く広く多様に次々と浮かんでくるのです。

 

 

 以上、田口佳史氏、枝廣淳子氏の共著『ぶれない軸をつくる東洋思想の力』(光文社新書)をもとに構成しました。西洋中心主義の限界を乗り越え、愉快な人生を過ごす方法を考えます。

 

● 『ぶれない軸をつくる東洋思想の力』詳細はこちら

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