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死の24時間前、人の体には何が起きるのか?

ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2019.01.23 20:00 最終更新日:2019.01.23 20:00

死の24時間前、人の体には何が起きるのか?

 

 人は、亡くなるまで24時間を切ると、極端に尿が出なくなります。尿の量は徐々に減り、その頃にはもう出てもわずかですが、それがついに出なくなります。

 

 導尿バッグをつけている場合は、溜まった量を見ればわかりますし、そうでない場合はオムツをチェックする際にわかります。たとえば2時間おきにオムツをチェックしていたとして、5回、6回と濡れていない状態が続いたら、亡くなるまでの時間はもうそんなに長くないと考えていいでしょう。

 

 

 一般的には、尿が出なくなるのと同じ頃から、下顎(かがく)呼吸が始まります。下顎呼吸とは、顎を上下に動かしてする呼吸で、これが始まると、残されているのは24時間程度です。したがって、入院している場合には、このタイミングで「親族に集まっていただいた方がいい」と告げます。

 

 自宅の場合には、このとき家族が救急車を呼んでしまうケースが多々あります。それまで静かに息をしていたのに急に様子が変わり、顎を上下させて息をする姿が、苦しくてあえいでいるように見えるためです。

 

 けれども、この呼吸は人が亡くなる際の自然のプロセスであることを思えば、ひどく苦しいわけではないと考えた方がいいでしょう。実際に、次のようなケースもあります。

 

 その患者さんは在宅療養をしていて、その日は医師と私の2人で訪問診療にうかがいました。といっても、点滴も何もしていないので、体調をチェックするだけです。いつものように居間に通されると、患者さんは車椅子に座って、家族と談笑していました。ところが、明らかに下顎呼吸をしているのです。

 

 下顎呼吸が始まる頃には、呼べば目を開ける程度の反応はあっても、意識が低下しているのが普通ですし、私は意識が低下した患者さんしか知りませんでした。

 

 そのため非常に驚いて、帰りの車中で「先生、あれは……」と言うと、「そうだよね、下顎呼吸だったよね」と、医師も内心驚いていた様子です。やはり、下顎呼吸なのに談笑している人は診たことがなかったのです。

 

 それで、「でも、車椅子に座っていたし、話をしていたし……。やっぱり違うのかな」と言っていたところ、その日の夜8時頃、亡くなったと連絡がありました。

 

 訪問診療が午後2時頃でしたから、6時間後。やはりあれは下顎呼吸だったのです。が、少なくともこの患者さんは、家族と談笑していたのですから、苦しくなかったと言ってもいいのではないでしょうか。

 

 下顎呼吸は、最終の着地態勢に入った印です。死にゆく人を静かに見守り、最後の時間をともに過ごすことができれば、それに越したことはありません。

 

 下顎呼吸になったあと、心停止が起こる前に、それまで出なかった尿と便が、今度は一遍にバッと出ます。血圧が低下して、体中の筋肉が緩むため、筋肉でできている尿道口や肛門も緩んで、体内に溜まっていたものが出るのです。

 

 これが起こると、あとは間髪を容れず、心停止に向かって進んでいきます。

 

 いきなり尿と便が出ると驚きますが、そのおかげで、亡くなったあとの体の中はきれいに空になっています。人は自分で自分の体をきれいに空にして、亡くなるのです。

 

 ただしこれは、昇圧剤の点滴などを入れていない場合です。この段階で入院している人は多くの場合、血圧を保つために昇圧剤を点滴しています。すると、尿と便がバッと出ることがないまま、心停止に至ります。

 

 病院では、ご遺体から尿や便が漏れ出ることのないよう詰め物をさせていただくのが常でしたが、自然な流れの中で自分で自分の体を空にした人には、この処置は必要ありません。

 

 ときには、目が半開きになって涙が出ることがあります。これも失禁と同様、血圧が低下して筋肉が緩んだために起こることです。筋肉が緩んで瞼(まぶた)を閉じていられなくなると、目の角膜が乾きます。角膜が乾くと、生理現象として涙が出るのです。

 

 まったくの生理現象なのですが、それを知らないと、「泣いている。悲しいのだろうか?」とか、「死ぬのがイヤなのか?」などと思い、動揺してしまいます。

 

 ただし、なかには「いい人生だったと思って、感謝の涙を流している」というように、肯定的に捉える家族もいます。そのような場合には、あえて「生理現象です」と言わなくてもいいでしょう。

 

 最後に、呼吸が止まります。止まるときは、息を吸って亡くなるケース、息を吐いて亡くなるケースの両方がありますが、私が見てきた限りでは、息を吸って亡くなるケースが多かったように思います。

 

 生まれるとき人は、呼吸筋で肺を押して息を吐くところから呼吸を始めます。生まれたとき「オギャー」と言うのは、息を吐いているわけで、人は息を吐いて生まれ、息を吸って亡くなるのです。「息を引き取る」とはよく言ったものです。

 

 

 以上、玉置妙憂氏の新刊『死にゆく人の心に寄りそう~医療と宗教の間のケア~』(光文社新書)をもとに再構成しました。現役看護師の女性僧侶が語る、在宅死に向けた心の準備とは?

 

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