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「死にゆく人の心」を蝕むスピリチュアル・ペインの対処法
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2019.02.03 11:00 最終更新日:2019.02.03 11:00
緩和ケアとは、詳しくはどのような医療をさすのでしょうか。世界保健機関(WHO)では、以下のように定義しています。
《緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、疾患の早期から、痛み、身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題に関して、的確な評価を行い、それが障害とならないように予防したり、対処したりすることによって、クオリティー・オブ・ライフ(QOL:生活の質)を改善するアプローチである。》
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「心理社会的問題」とは、不安や苛立ち、抑うつ状態のような精神的な問題と、仕事やお金、人間関係などの社会的な問題をさします。
「スピリチュアル」は、「霊的な」と訳されることもありますが、霊的というと心霊現象などを思い浮かべる人もいるからでしょうか、通常はスピリチュアルという言葉をそのまま使います。スピリチュアルな問題、すなわち「スピリチュアル・ペイン」は、「魂の痛み」と訳されることもありますが、これもわかりにくいため、基本的にはスピリチュアル・ペインという言葉がそのまま使われます。
私はこの、終末期特有の問題とも言えるスピリチュアル・ペインに対するケア、「スピリチュアル・ケア」を、病気の種類にかかわらず充実させたいと思っています。
では、スピリチュアル・ペインとは、いったいどのようなことを言うのでしょうか?
私は、スピリチュアル・ペインとは、「問われても答えられないもの」だと思っています。答えようのない問いを発し始めたら、それはスピリチュアル・ペインから出てきた言葉だと思うのです。
たとえば、「なぜ死ぬのだろうか」とか、「どれくらい生きていられるのだろうか」「私の人生は、何だったのだろうか」といった問いには、答えがありません。答えのないことを問われると、問われた方が困惑します。たとえば、お母さんが「私の人生って、何だったと思う?」と、突然言ったら。
おそらく、問われた人はギョッとして、「何バカなこと言ってるの」とか、「知らない」などと言って、逃げてしまうのではないでしょうか。その問いの、あまりの重さに震え上がって、自分を守るために逃げ出すのです。
しかし、そこは逃げ出さずに、聞くことが大事です。答えはありませんから、聞くだけですが、それでいいのです。諭したり、ごまかしたりする必要もありません。「そんなこと言わないで、元気出して」などと言わずに、死にゆく人の言葉に耳を傾けます。スピリチュアル・ペインにもしも答えがあるとすれば、それは私たちの中にではなく、死にゆく人の中にあるのです。
スピリチュアル・ケアの例を、一つだけ挙げましょう。
その患者さんは、もう長いこと在宅療養をしていて、医師や看護師をはじめ、作業療法士やあん摩マッサージ指圧師など、多くの人が関わっています。それにもかかわらず、「ただ話を聞いてくれるだけの人がほしい」ということで、私がうかがうことになりました。なぜ、ただ話を聞くだけの人がいいと思ったかというと、以下のようなことがあったからです。
あるとき、マッサージ師に「最近よく眠れない」と言ったのだそうです。するとマッサージ師が、「じゃあ、よく眠れるマッサージをしようね」と言って、それ以来、よく眠れるマッサージをしてくれるようになったのです。
しごく当然の反応だと、思われたのではないでしょうか。しかし、このとき患者さんが言った「よく眠れない」は、文字通りの意味ではなく、スピリチュアル・ペインだったのです。心の痛みのせいで、よく眠れない。
でも、医師や看護師に「眠れない」と言うと、「睡眠薬を処方しましょうか」ということになってしまうから、マッサージ師に言った。ところがマッサージ師も同様の反応をした、ということです。
もちろん、マッサージ師が悪いのではありません。そう言われれば、その問題を自分のスキルでなんとか解決するのが、マッサージ師の仕事です。
けれどもそれ以来、患者さんは何も言えなくなってしまったそうです。自分の言葉に反応して動いてほしいわけではなく、話を聞いてほしいだけだったからです。「眠れないから寝不足で困る」という体の問題ではなく、「もう眠れない状態になっているのだ」という、心の痛みを口にしただけなのです。
このケースのように、患者さんの言葉が体の不調からくるものなのか、スピリチュアル・ペインからくるものなのか、見極めるのが難しいことがあるかもしれません。そんなときには、自分で判断してしまわずに、本人に聞いてみるといいのではないでしょうか。
「よく眠れない」と言われたら、「何かしてほしいことはある?」と聞いてみる。「睡眠薬を増やしてもらおうかな」とか、「足をマッサージしてくれる?」などと言われたら、そうすればいいのですし、「何もない」と言われたら、それはスピリチュアル・ペインですから、そばにいて話を聞けばいいのです。
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以上、玉置妙憂氏の新刊『死にゆく人の心に寄りそう~医療と宗教の間のケア~』(光文社新書)をもとに再構成しました。現役看護師の女性僧侶が語る、在宅死に向けた心の準備とは?
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