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相続トラブルなぜ起きる「一澤帆布の創業家」遺産裁判で検証
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2019.02.14 16:00 最終更新日:2019.02.14 16:00
少子高齢化や核家族化が進む現代では、遺産をめぐる争いの数は確実に増えている。相続トラブルの最大の防衛策は、「遺言を残す」ことだとされる。しかし、その防衛策そのものが、トラブルの原因となった事例がある。
1905年に京都で創業された老舗鞄メーカー・一澤帆布。厚布の帆布鞄が人気で、3代目社長の一澤信夫氏には、長男の信太郎氏、早世した次男、三男の信三郎氏、四男の喜久夫氏という、4人の息子がいた。
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1980年、三男の信三郎氏が家業を継ぐために家に戻り、1988年に4代目社長に就任。4代目のもとで色彩豊かで実用性を兼ねた帆布鞄が考案され、京都・東山の一澤帆布店のみでの販売がプレミアム感を生み、現在まで根強いファンがいることで知られている。
その人気メーカーで、2001年3月に信夫氏が死去したことをきっかけに、長男と三男の対立に端を発する相続争いが勃発した。発端は信夫氏の遺言が2通も出てきたことだった。
その内容は、冒頭の図に示したとおり。原則として、複数の遺言が発見された場合、矛盾する内容については遺言者の死亡時に近い時期に作成された遺言が優先される。
三男・信三郎氏は「第二の遺言」が疑わしいとして最高裁まで争ったが、2004年に敗訴が確定。2006年3月、信三郎氏は職人たちと新ブランド「一澤信三郎帆布」を立ち上げた。
そして今度は、信三郎氏の妻が、「第二の遺言」の無効確認訴訟を起こし、2009年6月に原告勝訴。信三郎氏は、一澤帆布に復帰することになった。
三男VS.長男・四男で、長年にわたる「訴訟合戦」となった原因は、遺言が2通あったことだ。
「もともと相続人同士がいがみ合っていたり、事業の経営方針が対立している場合などは、公正証書遺言を利用するべきです。
公正証書遺言とは、公証役場で公証人1人と、証人2人のもとで作成される遺言のことです。第三者に書き換えられたり、偽造されたりする可能性が低い、書類の不備が防げるなどのメリットがあります。
一澤帆布の事例でも、公正証書遺言を利用すれば、争いにはならなかったでしょう」(相続に詳しい弁護士の長谷川裕雅氏、以下同)
「争族」を防ぐために親に遺言を書いてもらっても、その遺言が無効となっては、よけいに揉めるのは火を見るより明らかである。けっして難しい手続きではないので、相続で揉めそうだと思っている方には、ぜひ参考にしていただきたい。
さらに、遺産以外でもポイントがある。一澤帆布は、厚布の帆布鞄の丈夫さと、シンプルなデザインで、全国区になった鞄メーカーであった。
「もともと、技術者の技術力、クラフトマンシップが支持されていたわけです。株式を持っているかどうかではなく、優秀な技術者を抱えているかどうかが重要になってきます。
いくら株式を保有していても、技術者がいなくては、商品を製造できません。いまの消費者は目も確か。技術力で売っていた会社で、その技術力が下がれば、顧客は離れていくでしょう。
一澤帆布の事例では、最初の裁判で敗訴した信三郎氏が、技術者を連れて新ブランドを立ち上げました。これが大きかったと思います」
裁判には敗訴したものの、この時点で、鞄メーカーとしては信三郎氏が「勝った」といえるだろう。このような事例は、コンテンツビジネスにも通じることだという。
「最近話題になった例だと、ビートたけしさんの独立問題です。オフィス北野の株式が重要というよりは、『たけしさんがどこにいるか』が、重要になる。たけし軍団はオフィス北野に残り、『オフィス北野』という社名は残りましたが、たけしさんは出てしまった。これでは厳しい。
人材の価値という点では、2008年、サザンオールスターズが無期限の活動休止を発表したときに、所属するアミューズの株価が暴落するという出来事がありました。人で価値が動く。芸能界はまさにコンテンツビジネスの最たるものだと思います」
株式云々よりも、人間関係が重要だという例でもある。何事も人との繫がりが大切だと、肝に銘じておこう。
(週刊FLASH 2019年2月19日号)