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吟醸王国・山形の蔵元本家に伝わる戒めは「松の木は植えるな」
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2019.02.24 16:00 最終更新日:2019.03.07 15:27
「吟醸王国」山形の酒らしく、香りよく繊細でフルーティーな風味、洗練された柔らかい飲み口が、東光の特徴だ。
二十四代目蔵元の小嶋健市郎さんは、慶大卒業後、大手企業のマーケティング職や酒類の輸入関連の米国企業で経験を積んだ後、30歳のころに蔵へ戻った。そのとき、蔵は経営的にかなり厳しい状況だったという。
「戻ってきて感じたのは、『お酒の顔がバラバラで、売り方がちゃんとできていない』ということでした。ラベルを同じフォーマットに変えて統一感を出しつつ、銘柄を整理して元の量産蔵から、毎年少しずつ吟醸酒中心の蔵に変えていった感じです」
古くは蒲生氏郷とともに近江から移り住み、のちに上杉家の御用酒屋を務めた長い歴史のある蔵。小嶋 “総本店” とあるとおり、分家も多く、その経営面をサポートする役割が昔から本家にはあった。
「大正時代に米沢を襲った一度めの大火では被害に遭わなかったため、分家を助けるためにかなり財産を使いました。その2年後、再びの大火で蔵が焼け落ちてしまったと聞いています。そのころは、相当に資金繰りも苦しかったようです」
そんな蔵存亡の危機を幾度も乗り越えてきたのは、やはり「質素倹約」という先祖代々の教えが大きい。
「ほかに伝わるのは『松の木は植えるな』という言葉。松の木は手入れに手間がかかる。贅沢を戒めたご先祖の言葉だと思います」
二十四代目は、収益を最新式の洗米機など設備投資に多くを費す。経営は質実そのものだ。
「今でもけっして潤沢なわけではありませんから。まずは酒をよくするための投資。次に、もしものときのために蓄えることです」
昔から派手な宝石を買ったり、高い車に乗ったりするような家系ではない、と二十四代目は語る。
本社蔵から車で5分ほどのところには、親戚が経営していた蔵を改装して酒蔵資料館として活用するなど、街並みの保全にも力を注いでいる。
酒蔵資料館では江戸時代から伝わっている酒造りの道具や大きな木桶が展示されているほか、最後に東光の各銘柄を試飲できるコーナーがあり、週末には多くの客で賑わう。近ごろは外国人も多く訪れるという。
「展示の目玉になるものを探していたら、親戚筋の漬物蔵で使っていた直径195cmの6尺桶がたくさん出てきました。日本酒造りの木桶は、20〜30年するとアルコールが揮発しやすくなるので、味噌蔵や漬物蔵へ卸していたんです」
その漬物蔵から出てきた木桶のひとつには、明治41年10月31日製という筆書きがしたためられていた。それは資料館リニューアルオープンの日と同日で、木桶にとっては満110歳の誕生日だったという。
「110年のときを超えた同じ日に、木桶が蔵に戻ってきてくれたのかと。こんな偶然があるのかと驚きました」
米沢の地で、400年を超える歴史を受け継ぎながら、新しい感覚も取り入れて現代に即した経営にチャレンジする二十四代目。
2018年春からはアルコール度数を13%ほどに抑えた新感覚の吟醸『小嶋屋』という銘柄を立ち上げた。酒造りでも現代に合ったスタイルを模索しつづけているのだ。
現在、普通酒は製造していない。リーズナブルな価格帯でも本醸造で醸すなど、品質面で妥協を許さず、山形らしい香り豊かな吟醸酒のラインナップをさらに磨きあげていくつもりだ。
<蔵元名>
小嶋総本店(山形)
創業422年(1597年)
<銘柄>
東光(とうこう)
小嶋屋(こじまや)
山形県米沢市本町2丁目2-3
https://www.sake-toko.co.jp
<社訓>
質素倹約