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いま明かされる「ヤフーBB」革命前夜、そのとき孫正義は…

ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2019.03.05 11:00 最終更新日:2019.03.05 16:37


 一般家庭に初めて開通した日、はしゃぎまくった孫正義

 

 須田氏ふくめ、当時の現場社員たちはなぜ、想像を絶するほどの「仕事地獄」から逃げ出さなかったのだろうか。

 

「過酷な環境ではありましたが、孫さんに文句はありませんでした。孫さん自身が、誰よりも働いているのを知っていたからです。『オレは本気なんだ、お前たちはどうだ?』が口癖だった当時の孫さんは、本当に24時間、BBのことを考えていました。

 

 カリスマ社長が目を血走らせて、『あれやれ』『これやれ』『どうする?』と部下に毎日ギャーギャー叫びながら、みずからも交渉の場に赴いて、ウルトラCの契約をまとめてくる。また、パソナ社が集めてきたモデム設置バイトの説明会にまでやってきて、たった20人ほどのバイトに対して前説を務める。

 

 孫さんがソフトバンクを創業したとき、バイト2人を前にして、『この会社は、1兆、2兆と数えてビジネスをやる会社になる』と熱く語ったという、有名な逸話があります。

 

 BB立ち上げのときも、創業当時と同じような、異常なまでの熱意があり、古参社員たちですら『いつもの変わり身プロジェクトじゃない』と感じるようになっていましたね。

 

 ただ、単純な利益追求に目がくらんでいたり、功名心から事業を楽しんでいるような感じはありませんでした。『自分で決めてしまったことだから、やっているだけ』なのだと思います」

 

 そんな超仕事人間の孫氏に対して抱いていたのは、「憧れ」とも少し違う感情だった。

 

「そばで見ていた孫さんをいつも、『脳にスパコンを積んでいる』と感じていました。脳がちぎれるほど考え抜いて、必ず解決策にたどり着き、事業を成立させる。そういう使命感を帯びていました。

 

『学生時代は世界で一番勉強した』という孫さんは、そもそも常人の域にはいない。新規事業をはじめるときは、毎日5分間、極限まで集中して考える、ということを続けられていました。僕も真似しましたが、まったく思いつかず1カ月もたなかった。

 

 若くして事業を始める際も、『登るべき山を見つける』という考え方をされていて、『日本マクドナルド』や『日本トイザらス』を創業した伝説の経営者、藤田商店の藤田田社長にヒアリングに行かれたそうです。

 

 そんな孫さんが覚悟を決めて始めた『登山』ですから、現場は半分死にかけながらも、なんとかついていくしかありませんでした。もう退路のことなんて、誰も考えていなかった」

 

 部下たちにとっては「超人的な存在」の孫氏だが、ときには人間味ある言動もみせた。

 

「初めて一般顧客の家で通信がつながった報告を受けたとき、孫さんは少年のように大はしゃぎでした。『やった! つながったぞ! ほら、みんな、やっぱりつながったぞ!』って。

 

 そして、『よし、今日はみんなで焼き肉でも行くぞ!』と号令をかけて、30人ぐらいの現場部隊を、会社の近くにあった焼き肉屋に連れていってくださいました。孫さんみずから、『今日はめでたい! みんなありがとう! ワシのおごりだ!』と乾杯の音頭をとり、つかの間の『口福』が訪れました。

 

 でも、ふだん仕事ばかりしているメンバーですから、飲み食いしながらも、ほとんど仕事の話ばかり。結局1時間ぐらいで、現場も、おそらく孫さんも、会社に戻りました。それが孫さんと食事をご一緒した、最初で最後の機会でした」

 

 それから数日経っても、孫氏の上機嫌は続いた。ある日、BB事業にかかわる全社員が、孫氏から会議室に召集される。

 

「『お前ら、本当に頑張ってくれた! ありがとう! これはオレからのボーナスや!』と、100万円の入った封筒を、ひとりひとりに手渡しでくださいました。

 

 集められたのは、焼き肉と同じく30人ぐらいで、なかには派遣社員やバイトに近い方もいました。現金で100万円なんてもったことがありませんでしたから、おびえながら走ってATMに貯金しました。なにに使ったかは……記憶にありません(笑)」

 

 最後に須田氏は、ソフトバンクを現在の巨大企業集団にまで育て上げた孫氏の、経営手腕について語った。

 

「元ITベンチャーというくくりで考えれば、日本にも多くの優秀な経営者がいます。大きな金融レバレッジをかけたり、社債を大量に発行したり、どの大企業にも、生死をかけて勝負に挑む瞬間はあるんです。

 

 でも、彼らと孫さんが決定的に違うのは、『世界レベルの実現力』だと思います。孫さんは、まだ無名だったスティーブ・ジョブズやビル・ゲイツと交流を深め、契約を結んでいます。

 

『Yahoo!』という海外大手とジョイントベンチャーを設立したり、アラブの富豪たちと協業できているのも、日本では孫さんだけですよね。

 

 いま思えば、BBが一般顧客宅で開通したとき、『つながった』ことの本当の意味が分かっていたのは、孫さんだけだったのではないでしょうか」


すだ きみゆき
1973年生まれ 茨城県牛久市出身 自称「エンジェル労働家」の経営アドバイザー。1998年にソフトバンクのグループ企業に入社し、経営企画担当「Yahoo!BB」事業の立ち上げ、として衛星放送事業子会社の上場に携わる。2002年に退社し、アエリアのCFO(最高財務責任者)就任。社内ベンチャー企業を設立し、惣菜店の運営を経験したのち、2004年に同社の上場に携わり、CFOとしてゲーム、IT、金融企業のM&Aなどを手がけた

 

※孫氏との逸話が克明に記録された、初の著書『恋愛依存症のボクが社畜になって見つけた人生の泳ぎ方』(ヨシモトブックス)が発売中

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