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妻による丸刈りを卒業「吉田戦車」静かに眠れバリカンよ
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2019.03.13 11:00 最終更新日:2019.03.13 11:00
髪やヒゲの話題が続くようだが、実は昔から理容店が苦手である。昔ながらの床屋さんが、というべきかもしれない。イスに座っている1時間強が、かなりつらい。
ヒゲが濃いので、店の人が「完璧な仕事をしないと!」と張り切って、いつまでもいつまでもヒゲを剃り続けるような気がする。拷問、という言葉が浮かぶ。
若い頃はなぜか「ヒゲは必ず剃ってもらわなければいけないもの」と思いこんでいた。
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経験値が上がるにつれ、「ヒゲは軽く、ざっとで、深剃りとかしなくていいから」と注文したり、床屋に行く日は朝しっかり自分でヒゲを剃り、「シェービングはなしでいいです」と断る技を身につけた。
それでも、洗髪の快感、マッサージの気持ちよさなど、トータルな爽快感の記憶はもちろんあるけれど、残念ながら苦手意識のほうが残ってしまった。
一時期、妻の伊藤が通っていた美容室を行きつけにしていたことがあるのだが、ヒゲ剃りは最初からないし、それなりにオシャレに仕上げてくれるし、あの数年間はよかった。
それまでの人生にほとんどなかった「なじみの髪切り場」であり、世間話もできて気分的に楽だったのだが、自宅からちょっと遠いため、妻ともども、やがて行かなくなってしまった。
またあっちの店、こっちの店と近所の理容店を渡り歩きはじめたのだが、また苦手意識と「どうもかっこよくない」感じに悩むことになる。
もう髪型なんかどうでもいい! と思い、バリカンを買ったのは、2015年だったか。パナソニック「ボウズカッター」。5000円ぐらい。「もう坊主にする、坊主坊主!」と決意した目が、この商品名に引き寄せられたものか。
浴室で自分で刈るつもりだったのだが、妻が妙に興奮してしまい、刈ってくれることになった。何かがバレて罰を受けているかのように、パンツ一丁で妻に丸刈りにされる。
寒い季節は1000円理容店を利用する。そのシフトが2、3年ほど続いただろうか。「妻による丸刈り」時代は、トータル20回になるかならないかぐらいで、なんとなく終わった。
まだなんらかの自意識があるのか、いつまでたっても鏡の中の自分の坊主頭に慣れなかった、というのもある。
1000円理容店はすぐに1080円になり、最近1200円になったけれど、今では通年そこを愛用するようになった。
職人さんによる当たり外れはあるものの、なんといっても所要時間が短く、忙しい妻に時間を作らせ、浴室で半裸になるより実は気軽だ、と気づいたのが大きかった。
そんな感じで使わなくなってしまったバリカンだが、失敗したとは思わない。坊主頭は気持ちよかった。いつかまた来るかもしれない「もう坊主でいい」という日まで、静かに眠っていておくれ、ボウズカッターよ。
よしだせんしゃ
マンガ家 1963年生まれ 岩手県出身 「ビッグコミックオリジナル」で『出かけ親』、「ビッグコミックスピリッツ」にて『忍風! 肉とめし』を連載中。妻はマンガ家・伊藤理佐さん。近刊に本連載の単行本『ごめん買っちゃった』(光文社)。そして、『忍風! 肉とめし2』(小学館)が発売中!
(週刊FLASH 2019年3月19日号)