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医療ジャーナリストが警告「こんな治療はいらない」21大リスト
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2019.04.15 16:00 最終更新日:2019.04.15 16:00
世界中でいま、「ムダな医療」を見直す動きが広がっている。発端となったのが、2011年にアメリカの医学会で始まった「チュージング・ワイズリー(賢い選択)」運動だ。
50歳をとうに過ぎた記者は、高血圧、糖尿病、痛風の三重苦に悩まされている。月に一度、内科で薬を処方してもらうのだが、いずれも数値は正常値に回復している。
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−−数値もよくなったし、そろそろ薬をやめたいんですが。
「薬が効いているせいです。まだやめちゃいけません」
記者の訴えに、かかりつけの医師は冷たく言い放った。これは「ムダ」ではないのか……。
本誌は、チュージング・ワイズリー運動を初めて日本に紹介した医療経済ジャーナリストの室井一辰氏の協力を得て、最新情報を加えた「ムダな医療リスト」を作成した。
以下に、「不要な治療」をまとめた。少しでも疑問に感じていることがあれば、臆せず医師に聞いたほうがいい。このリストが心強い、「武器」になるはずだ。
【「こんな治療は大間違い」21大リスト】
(1)「手術の際に、毛髪は剃らない」(米国看護学会)
感染症のリスクがある。カミソリで剃ったときの感染率は2.3%、バリカンで刈ったときには1.7%、毛を除かなかったときには0.9%となったとの研究がある
(2)「薬で治療できる『心房細動』に、カテーテル治療は不要」(米国不整脈学会)
薬剤で症状や心拍がコントロールされている「心房細動」の患者には、カテーテルによる治療(心筋カテーテルアブレーション)を実施すべきではない。とくに無症状の患者では利益よりもリスクのほうが大きい
(3)「『中心静脈カテーテル』は、不要になったら即中止」(米国老年医学会)
心臓につながる静脈に管を通して、栄養液や薬を投与する「中心静脈カテーテル」は、感染症や出血を招くなど、合併症の原因にもなり、ごく限られた患者以外に実施すべきではない
(4)「耳や鼻のトラブルは、問診や身体検査だけで十分」(米国耳鼻咽喉科学会)
耳や鼻に異常があると、「CT検査」などの画像検査がおこなわれがちだが、症状を見るだけで、おおよそ判断がつくと考えられている。抗菌薬も安易に使ってはいけない
(5)「貧血を治療せずに手術するのは御法度」(米国血液マネージメント学会)
緊急手術以外の、あらかじめスケジュールを組んでおこなう「待機的手術」の場合、貧血を回復させてから手術する。貧血が、死亡率を3~4割も高めるとの研究結果もある
(6)「甲状腺で見つかるしこりは、多くの場合はガンではない」(米国放射線学会)
甲状腺のしこりは、ガンではないことが多い。治療よりも、定期的に検査をして監視する「アクティブ・サーベイランス」の対象と考えるべきだ
(7)「高齢者の精神状態が変化したり、混乱したりしたときに、『せん妄』の可能性を考える」(米国看護学会)
高齢者が、薬や手術などの影響で発症する「せん妄」が、認知症の症状と勘違いされる場合が多い。勘違いされると、本当の原因に目が向けられないまま、的はずれな認知症の治療が、おこなわれてしまうことがある
(8)「歯の詰め物は、古くなったという理由だけで取り替えない」(米国歯科医師会)
歯の詰め物は、「銀歯がイヤだから」という理由で取り替える人も多いが、銀歯を削ると有害なガスが生じることもあるなど、問題がある。たんに「古くなったから」と、歯の詰め物の取り替えを提案されたときには、その意義を疑うべきだ
(9)「上下の歯が合わさる面にできた虫歯は、まず『シーラント』の使用を考える」(米国歯科医師会)
歯を削る修復は、優先度を下げるべきだ。「シーラント(プラスチックの樹脂)」は、歯を削る必要がなく、安全性も証明されているので、最初に使用を考えるとよい
(10)「勃起不全の男性に『テストステロン』を処方しても、効果はない」(米国泌尿器科学会)
勃起と男性ホルモンの一種である「テストステロン」は無関係。性欲を高める効果はあるが、勃起不全の治療に有効ではない。一定量のテストステロンが体内にあれば、補充する必要はない
(11)「手術の切り傷に『抗菌薬』を塗らない」(米国皮膚科学会)
清潔な手術後の切り傷には、抗菌薬を塗っても意味がない。むしろ、自然な治癒を遅らせる可能性がある。「抗菌薬を使うのは、本当に感染が確認できた場合に限定すべき」と指摘する
(12)「乳ガンの疑いで、早い段階に手術に踏み切ってはならない」(米国癌委員会)
手術の前に、組織を小さく切除し、あるいは吸引する「針生検」をすれば、手術を回避しやすくなり、大きく乳房を切除する必要もなくなる
(13)「妊娠中の女性に、ベッドでの安静を強制してはいけない」(米国産婦人科学会)
安静にしていても、出産成績が向上したことを示すデータはない。むしろ、体を動かさないことにより、筋力の低下や「血栓塞栓症」のリスクが懸念されている
(14)「高齢者を、ベッドに寝かせきりにしない」(米国看護学会)
「入院中は安静にしたほうがいい」と思われがちだが、早期離床が現在のトレンド。「早めに動き始めたほうがいい」という考えが主流になっている
(15)「大腸ガンの『内視鏡検査』は、10年に1回で十分」(米国消化器病学会)
大腸の「内視鏡検査」でガンが見つからなければ、その後10
年間は、ガンのリスクは低い。1cm未満のポリープが見つかっても、完全に切除すれば5年間、内視鏡検査は不要である
(16)「前立腺ガンには、定期的な監視の選択肢も」(米国泌尿器科学会)
前立腺ガンは、進行速度が遅いことが多い。手術を避けられる場合もあり、定期的な監視を選ぶことも可能である
(17)「無症状の人に対して、ガンの『全身画像検査』はおこなわない」(米国予防医学会)
症状がなければ、全身からガンを探す「画像検査」はおこなうべきではない。ガンでもないのにガンと診断されてしまい、不要な精密検査や治療を受ける懸念がある
(18)「ガンの治療中や治療後は、積極的に運動に取り組むべき」(米国看護学会)
「ガンの治療中は安静にすべき」と思われがちだが、むしろ運動に取り組んで、体力をつけたほうがメリットがある、という考えが主流になっている
(19)「『プランなきガン治療』は始めるべからず」(米国癌委員会)
「ガン治療後の、不適切で過剰な検査が一般化している」と指摘。そのことで、新たな病気を発症したり、患者の精神的な負担を招いたりすると、問題視している
(20)「ガンでいきなりの『手術』は御法度」(米国癌学会)
まず、ガンのタイプやステージに合わせた「抗ガン剤投与」や「放射線治療」をおこなうことで、いきなり手術を実施するより、手術の効果も高まる
(21)「余命10年未満の人への、『ガン検診』は控えよ」(米国医療ディレクターズ協会)
「ガン検診」は、ガンを見つけるメリットはあるが、ガンが見つかっても見つからなくても、検診は患者に負担となる。明らかに寿命を延ばすとわかっているときだけに、限るべきだ。その目安が余命10年なのだ
モデル・ミスFLASH2019 阿南萌花
(週刊FLASH 2019年4月2日号)