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知っておきたいビジネスフレーム「コア・コンピタンス」

ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2019.06.16 11:00 最終更新日:2019.06.16 11:00

知っておきたいビジネスフレーム「コア・コンピタンス」

 

 コア・コンピタンスは、「他社には提供できないような利益を顧客にもたらすことのできる、企業内部に秘められた独自のスキルや技術の集合体」(ハメル&プラハラッド、1994)を指す。真のコア・コンピタンスになるためには、次の3つの条件が必要である。

 

 第1にコア・コンピタンスは、顧客から認知される価値でなくてはならない。すなわち、企業がひとりよがりで考えた競争力ではないのである。

 

 例えばリッツ・カールトンは、「ニーズを先読みした、神秘的なパーソナルサービスを提供するホテル」を自任しているが、これは顧客からも認知されており、同社のコア・コンピタンスになっている。

 

 

 リッツは、枕の硬さや目覚まし時計の位置などのデータを、宿泊後に客室係がデータベースに入れ、次回その客が宿泊する時に、そのデータに基づいて、きめ細かなサービスを提供しているのである。

 

 第2にコア・コンピタンスは、競合他社との違いがなくてはならない。すなわちコア・コンピタンスとして認められるためには、ユニークな競争能力でなければならず、他社より数段優れていることが必要である。

 

 例えば、サウスウエスト航空は、就航当初「15分ターン」(到着後15分で出発する)を掲げ、競合大手が平均1時間弱のターン時間であるのに対して、圧倒的な差をつけた。これにより、少ない航空機で高頻度運航が可能になり、それがローコスト・オペレーションの鍵となった。

 

 そして第3に、企業力を広げる力をもっていなくてはならない。すなわち、コア・コンピタンスから具体的な製品・サービスのイメージを描けることが必要である。

 

 例えば、ソニーのコア・コンピタンスと言われる小型化技術は、トランジスター・ラジオから始まり、ウォークマン、8ミリビデオ、ミニディスクなど、ソニーの多くのコンシューマー製品に具現化されてきた。


 
 それでは「自社のコア・コンピタンスは何か」と問われた時に、「これが我が社のコア・コンピタンスです」と直ちに回答できるだろうか? 現実には、何が自社のコア・コンピタンスか分からないことが多い。

 

 日本より先に規制緩和が行われたイギリスのガス会社セントリカの例をあげてみよう。

 

 セントリカは、国営企業であったブリティッシュ・ガスが民営化され、分社化されてできたガスの販売会社である。規制緩和を契機に、ガス分野には電力会社のみならず、BPやシェルなどの石油会社が、原料の支配力をベースに価格競争をしかけ、参入してきた。

 

 セントリカはこうした新規参入者に一時的にシェアを奪われたが、数年後には、逃げた顧客がセントリカに再び戻ってきた。セントリカは競合より高目の価格であったが、顧客が求めていたのは、価格の安さだけではなかった。

 

 石油会社は価格の安さを訴えたが、1軒ごとの家庭の検針や料金決済に関してミスも多く、決済日も融通が利かず、顧客からのクレームも少なくなかった。

 

 セントリカは国営企業時代から料金の決済をしていたが、彼らはその正確さが顧客から評価される競争の武器とは考えていなかった。しかし自由化に伴い、競合企業からそれがコア・コンピタンスの1つであると知らせてもらったのである。

 

 その後セントリカは決済システムの強みを生かし、クレジットカードや住宅ローン、保険などにも参入した。セントリカは、自分では気づかなかったコア・コンピタンスを競合企業に教えてもらい、それを武器に事業を広げてきたのである。

 

 日本でも成田国際空港の免税店街は、20年ほど前までは単なる通路であった。国際線では、出発2時間前に空港に到着するように求められるが、以前は、出国手続き後は搭乗まで時間を持て余していた。


 
 その場所は、出国した後であるから、免税手続きも要らず、時間とお金を持っている旅行者にとって、免税品の買い物にはもってこいであった。

 

 特に母国に帰国する旅行者にとっては、重い荷物を成田まで運ばなくても、そこで免税品が買えれば、機内に持ち込むだけであり、便利であった。

 

 成田国際空港は2000年に欧米の有名ブランド・ブティックを開店して、以後ブランドモールが登場し、各旅客ターミナルの店舗スペースを増床した。その後ショッピングセンターの全国ランキングで、当時1位だった御殿場アウトレットを抑えて、首位になった。

 

 同じように、高速道路のパーキング・エリア(PA)やサービス・エリア(SA)は、従来はトイレ休憩の場であり、いかに駐車場の回転率を上げるかが課題であった。道路公団は分割民営化前には、その立地をコア・コンピタンスと考えてはいなかったのである。

 

 しかし民営化後、中日本高速道路(NEXCO中日本)などは、魅力的な店舗や娯楽施設などを誘致し、ここでの滞在時間をいかに長くするかに方針転換させることで、収益を大きく改善した。


PA・SAは、他の小売業者に侵食されない、高速道路会社の独占的なコア・コンピタンスだったのである。

 

 

 以上、山田英夫氏の新刊『ビジネス・フレームワークの落とし穴』(光文社新書)をもとに再構成しました。経営手法・フレームワークの「正しさ」と「危うさ」について解説します。

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