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尿1滴でがんがわかる「線虫検査」で治療現場も大きく変化ライフ・マネー 2019.09.03

 

 2013年7月。
 私は大学の研究室で、来る日も来る日も実験を行ない、小さな白い生物がシャーレの中央から端へと動いていく様子を見つめていました。

 

 小さな白い生物の正体は、「C. elegans(シー・エレガンス)」という名前の線虫。

 

 体長わずか1ミリ。目がないかわりに、鋭敏な嗅覚を持つこの線虫が、がん患者の尿には近寄っていき、健常者の尿からは遠ざかる――がんの匂いを嗅ぎ分けることができる――ということを、証明しようとしていたのです。

 

 

 シャーレの端に、がん患者の尿を1滴垂らし、中央に数十匹の線虫を置くと、30分ほどで線虫は尿の周りに集まります。逆に、健常者の尿を垂らすと、線虫は尿を避けるようにして離れていきます。

 

 幾度となく同様の実験を繰り返しましたが、ほぼ例外なく、線虫はがん患者の尿には近寄り、健常者の尿からは遠ざかるという結果が得られました(がんの種類、患者の性別、糖尿病などの病気の有無や、妊娠の有無には影響を受けないようでした)。

 

 これはあとでわかったことですが、驚いたことに、採尿時にはがんが判明しておらず、その後がんを発症した人の尿にも、線虫は引き寄せられていました。検査ではまだがんがあるとわからない、ごく初期のがんの匂いでも、線虫は嗅ぎ分けられるという可能性が示唆された瞬間でした。

 

 それまで約20年間にわたって線虫の研究を行なってきましたが、これほどの結果を目の当たりにしたことはありませんでした。がんの有無を、これほどまでに高精度に嗅ぎ分けるとは。私は興奮し、そして確信したのです。「線虫が世界を変える」と。

 

 なぜ、「線虫が世界を変える」と確信したのか。

 

 線虫をがん検査に用いれば、たった尿1滴だけで、高精度に、しかも早期に、がんのリスクを判定できるようになる。すると早期治療が可能になり、がんで亡くなる人が減って、がんが怖い病気でなくなる。

 

 体長わずか1ミリの線虫が、がん検査だけでなく、がん治療や人々のがんに対する意識も変えていく――。このような道筋がはっきりと見えたからです。

 

 現状では、がん検診とがん治療はジレンマに陥っています。
「がんは早期発見・早期治療が大事だ」と知られているにもかかわらず、検診の受診率は低く、早期発見・早期治療は進まない。その結果、がんで命を落とす人が多い、というジレンマです。

 

 検診の受診率が低いのは、「がんなんて怖くない」という人が多いからかというと、そうではありません。内閣府が行なった調査によれば、がんを怖いと思う人が72.3%を占めているのです。

 

 それでは、がんが怖いのになぜ検診を受けないかというと、その理由の1位は「検診を受ける時間がない」(30.6%)で、2位が「健康状態に自信があり、必要性を感じないから」(29.2%)となっています(「がん対策に関する世論調査」の概要 平成29年1月 内閣府政府広報室)。

 

 要するに、「時間もないし、必要性も感じないから、検診は受けない」ということでしょう。私もこの気持ちはよくわかります。

 

 では、「あなたは、がんのリスクが高い」と言われたら、どうでしょうか。「時間がないから、病院には行かない」「必要性を感じないから、検査は受けない」と、そのまま放っておくでしょうか?

 

 おそらく、放ってはおかないと思います。少なくとも私は、「がんのリスクが高い」と言われて放っておくような勇気はありません。子どももまだ小さいし、仕事も道半ばだし、妻だって(たぶん)悲しむと思います。

 

 そのきっかけ、必要のある人の足を病院に向かわせ、命を救うための契機となるのが、線虫がん検査「N-NOSE」なのです。

 

 N-NOSEで変わるのは、検査だけではありません。がん治療も大きく変わります。

 

 まず、手術の成否を測る判断材料にすることができます。
 これまでは、手術で腫瘍を切り取ると、その組織を病理医が診て、悪性の度合いを判断したり、残らず全部切り取れたかどうかを判断したりしていました。

 

 しかし、目で見て判断するために、病理医の経験と熟練度によって結果は左右されると言われています。実際に、残らず切り取ったと思った腫瘍が残っていて、がんが再発したり転移したりしてしまうケースもあります。手術後に抗がん剤治療をするのは、主にそれを防ぐためです。

 

 しかし、手術後にN-NOSEを実施すれば、体内にがんが残っているかどうかがわかります。一定の期間を置いて何度か検査をし、その結果がすべて陰性であれば、もう抗がん剤治療をしないで済むかもしれません。

 

 そうなれば、患者さんは苦しい思いをせずに済みますし、治療期間も短くなり、早く社会復帰できます。医療費の削減にもなるでしょう。

 

 さらに、手術の最中に、切り取った腫瘍の断端の組織をN-NOSEで検査することが可能になれば、がんをすべて切り取れたかどうかが、その場で客観的に判断できます。

 

 線虫はがん患者の尿だけでなく、がん組織の匂いにも近寄って行くことが、わかっているからです。その結果、断端にがん細胞があるとわかれば、切り取る範囲をもう少し広げるなど、治療方針の変更がすぐにできます。

 

 手術後は、一定期間ごとに継続してN-NOSEを受ければ、取りこぼしたがん細胞が再び活動を始めた、というようなケースがあったとしても、ごく初期に見つけることができます。

 

 したがって、何年もたって忘れた頃にがんが再発し、気づいたときには手遅れだった、というような悲しいケースも減るでしょう。

 

 がん治療の場合、大事なことは「がんが残っているかいないか」です。

 

 N-NOSEを受ければそれがわかりますから、詐欺まがいのいかがわしい療法も、効果の有無がはっきりと目に見えるようになります。したがって、治療効果のない療法に高額なお金を払うといった詐欺被害も、減らすことができると考えています。

 

 

 以上、広津崇亮氏の新刊『がん検診は、線虫のしごと~精度は9割「生物診断」が命を救う』(光文社新書)を元に再構成しました。線虫検査を開発した著者が「生物診断」の可能性を探ります。

 

●『がん検診は、線虫のしごと』詳細はこちら

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