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マニュアル作りの最重要ポイントは「すべての内容を1枚に」

ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2019.09.23 16:00 最終更新日:2019.09.23 16:00

マニュアル作りの最重要ポイントは「すべての内容を1枚に」

 

 第二次世界大戦序盤の1940年、苦戦していた英国にて、首相チャーチルは次の通達を政府の全部署に出した。

 

「我々の誰もが、職務を遂行するために膨大な報告書を読まねばならない。その報告書のほとんど全部が極めて長すぎる。どこに要点が書いてあるのかを探すのに、時間と体力を無駄にしている。

 

 

 報告書を短く書くように、私は同僚職員諸君に次の点を求める。

 

(1)報告書は、短く、仕分けの利いた段落を並べて作れ。

 

(2)報告の根拠となる、詳細な分析や、複雑な事情、統計データなどが添付できる場合でも、それらは別紙付録に追いやれ。

 

(3)表題と見出しだけのメモ書きは、長文の報告書にしばしば勝る。メモ書きでは不足する情報は口頭で補えばよい。

 

(4)曖昧な言い回しはしない。「次のような懸念もまた留意することが重要と言える」や、「この懸念が現実味を帯びることについて検討があってしかるべきであろう」などだ。これらはただの水増しであり、削除できるし、一単語で置き換えることもできる。短い表現をためらうな。くだけた言い回しでも構わない。

 

 この原則で書かれた報告書は、はじめのうちは従来のお役所言葉に比べて粗く見えるかもしれない。しかし、大いに時間を節約できるし、重要点をきれいに記述することは明晰な思考を助ける。」

 

 要は「繁文縟礼(はんぶんじょくれい)」を戒めているのだ。
 この考えは、現代でも輝きを失っていない。英語圏で出版されている作文術の教科書では、たびたび引用され続けてきた。

 

 むしろ現代の方が、極めて悲惨な状況である。電子メールなどの長文が職場で乱発されるようになり、メールの読み書きをするだけで、一日の仕事時間が尽きてしまうこともある。

 

 そこで、チャーチルの原則を踏まえつつ、マニュアルの書き方を述べていこう。もっとも重要なのは、すべてを1ページ以内に収めることだ。

 

 マニュアルは、すべての内容が「A4判1ページ片面」に収まるようにコンパクトに作る。どんなに長大で複雑な作業であっても、1ページに収める。

 

 1ページ以上の長さのマニュアルは、読み手が内容を覚えきれなくなる。複数ページのマニュアルは、作業中にページをめくらせることになり、それが原因で、気が散ってミスが増える。

 

 だが、明らかに無理だと思われる読者もいるのではないだろうか。たとえば、大型飛行機の製造工程のマニュアルを、たった1ページに収められるとは到底思えない。

 

 しかし、機械工学の世界では、「たとえ大型飛行機であっても、あらゆる機械の設計図は一枚紙に収めろ」という原則がある。

 

 まず、全体図を一枚紙に収めて、全体がいくつの部分で構成されているかを大雑把に理解する。全体図では、縮尺の都合上、各部分の詳細は描き込めていないが、それはその部分用の一枚紙を別に用意して、そこに描けばよい。

 

 世界地図は、一枚の図面となっているからこそ、世界各国の位置関係が理解できる。仮に、世界地図に日本のある県の情報も詳しく併載しようと欲張ると、縮尺の倍率をぐっと上げるしかなく、総勢数万枚の世界地図が出来上がるが、これでは情報の洪水になってしまう。

 

「モンスという町は世界のどこにあるか?」と言われても、広い地図の中からは探し出せまい(ちなみに答えはベルギー)。世界地図と分県地図とは分けて作ればよく、それなら両方ともそれぞれ一枚紙に収まる。

 

 機械設計図が1ページ以内の原則で運用されているならば、マニュアルだって1ページに収まるはずである。

 

 1ページに仕事の全情報を載せようとすると無理であるが、仕事全体の大局的な流れを指示するページと、特定作業の細かい手順の指示をするページとを分けて書けばよい。作業員が自分の担当部分である1ページを見るだけで事足りるようにできるはずである。

 

 千利休は、ある人から茶道の極意を教えてほしいと乞われ、次のように答えた。

 

「茶は服(飲み加減)のよきように。炭は湯の沸くように。夏は涼しく冬は暖かに。花は野にあるように。刻限は早めに。降らずとも雨の用意。相客に心せよ(客に関心を向け、丁寧にもてなしなさい)。」

 

 有名な「利休七則」である。
 問うた人がそれくらい誰でも知っていますと返すと、利休は「これができるのなら私が弟子になりましょう」と答えたという。

 

 ここでは、たった7つのルールしか述べていない。作業中の人間が頭の中に留めて置ける情報量は、これくらいが限界なのである。

 

 

 以上、中田亨氏の近刊『「マニュアル」をナメるな! 職場のミスの本当の原因』(光文社新書)をもとに再構成しました。長年、人間のミスの研究を続けている著者が、具体的な成功例・失敗例をあげながら、マニュアル作りの要諦を語ります。

 

●『「マニュアル」をナメるな!』詳細はこちら

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