さらに、タレが欠かせないのが、“あのタネ” だ。
「アナゴのタレは、『ツメ』といいますが、じつは店の味は、『仕入れるアナゴがどんなものか』と『焼き方』によるところが大きい。
アナゴの焼き方も、東京と関西では仕事に違いがあります。ウナギと同じなんですが、東京は蒸して出し、関西や広島は焼くのでカリッとしています。
宮島(広島県)から厳島神社に行くときのフェリー乗り場の近くに、『うえの』という老舗があるんです。そこの炭火で焼いた『あなごめし』は最高にウマい。
ちょっと脱線しますが、近くにはガスで焼くお店もあり、違いがはっきりわかります。やっぱり炭火がよくて、お弁当で次の日食べても美味しいんです」
ツメにも、歴史による変遷がある。
「現在アナゴのツメは、ほとんどのお店でイカのゲソ、シャコ、ハマグリにも使われています。かつてハマグリには、ハマグリを煮たときの汁で作る『煮ハマのツメ』を使っていたんですよ。
『トモヅメ』といいますが、アナゴもハマグリも、それぞれを煮たときの汁を使って、ツメを作っていました。ただ最近は、煮ハマ自体がそれほど出なくなって使われないので、アナゴのツメを代用するようになったというわけです」
失われつつある「江戸前の味」を、いまも楽しむ方法がある。
「(文豪の)池波正太郎さんが通われた『新富寿し』(銀座)という老舗で修行をされた親方がやられている、『み富』(銀座)というお店があります。
先日初めて伺ったら、味がものすごい濃い江戸前寿司を出されていて。玉子は甘いですし、シャコも煮ハマも甘い『トモヅメ』の煮詰めで、『ここまでか』という徹底ぶり。
最近は、『素材の味を活かす』というのがふつうになっていますが、違うんですよ。ただただ、昔ながらの仕事をしっかりされていて、何を食べても味が濃いんです。
流通が未発達だった時代にタネを長持ちさせるための、甘くする・しょっぱくする・酢で締めるという、腐敗防止の伝統的な仕事がありありと生きていた。『これが本物の江戸前寿司だよな』と感動して、すぐ自分の作品に描きましたね。ぜひ一度、伝統的な江戸前寿司を食べてみてください」
つくもしん
青森県出身 漫画原作者 作画担当のさとう輝先生とコンビで週刊漫画ゴラクで連載中『銀座「柳寿司」三代目 江戸前の旬』、スピンオフ作品の『寿司魂』『旬と大吾』『ウオバカ!!!』などを執筆。メディアへの出演は、連載20年で「ほとんどない」そう
(C)九十九森/さとう輝・日本文芸社
※『江戸前の旬DELUX』1巻が、日本文芸社より2020年1月29日に発売