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子どもへの体罰はなぜダメなのか…攻撃性が1.5倍高まることも

ライフ・マネー 投稿日:2020.01.28 16:00FLASH編集部

子どもへの体罰はなぜダメなのか…攻撃性が1.5倍高まることも

 

 今の大人は、まだ体罰が普通という環境の中で育った方も多いのではないでしょうか。

 

 小学校の時、道徳か何かの授業の際、先生が「親に叩かれたことがない人はいますか?」という質問をしたことがありました。たしかその時、手が挙がったのは、クラスで1人か2人だけでしたが、それでも驚いたのを思い出します。

 

 

 しかし、時代は変わりました。世界的に、体罰は禁止の方向へ向かっています。

 

 アメリカでは、2004年の調査では85%の10代の子どもが、体罰を受けたことがあると回答していました。しかし2013年の調査では、36歳以下の親の半数は、子どもを叩いたことはないと回答しています。

 

 ヨーロッパや南米を中心に、50以上の国で子どもへの体罰は法的に禁止され、日本でも体罰禁止を盛り込んだ改正児童虐待防止法が2019年6月に成立しました。

 

 体罰はよくないということへの反対意見として、体罰は「しつけ」であるといわれることがあります。しかし、暴力や恐怖で子どもをコントロールしても、子どもは善悪や社会のルールを学ぶことはできません。

 

 実は、体罰の効果は薄いこともわかっています。

 

 2014年の調査では、33の家庭で母親が数日間レコーダーを身につけ、録音された会話が分析されました。15の家族で体罰が行われていましたが、言葉で子どもに伝えたわずか30秒後に体罰が行われていました。これは、意図的というよりは、衝動的に体罰が行われているのではないかと分析されています。

 

 そして、10分後には子どもは同じ行動を繰り返していたのです。結果として、何度も体罰を加えることが必要となり、その程度もどんどんエスカレートしていきやすくなります。

 

 また、明らかな虐待や怒りに任せた暴力ではなく、しつけのための意図的な体罰であっても、体罰は、子どもに大きな悪影響を与えることが、医学研究からもわかってきています。

 

■体罰は、子どもを「攻撃的」にしてしまう

 

 1998年から2005年にかけてアメリカで行われた、2461人の子どもを調査した研究では、子どもが3歳の時に月2回以上体罰を行っていると、オッズ比にして1.49倍、子どもが5歳になった時の攻撃性が高まることがわかりました。

 

 2006年のアメリカの研究では、しつけとして体罰を受けている子どもは、実際に暴力行為を行いやすいことがわかっています。10~15歳の子どもとその親134組を対象に調査を行ったところ、親から体罰を受けていた子どもはそうでない子どもに比べて、人との関わりの中で暴力に訴えることを容認する傾向が高く、いじめの加害者や被害者となりやすい傾向にあったのです。

 

 さらに、2009年にアメリカで行われた研究では、体罰によって脳の前頭葉という部分が萎縮してしまうことがわかりました。この研究では、18~25歳の若者1455人に聞き取り調査を行い、3年以上にわたって体罰を受けていた23人と、体罰の経験のない22人を選んで脳のMRI(核磁気共鳴画像法)で画像を撮影しています。

 

 ここでは虐待のケースや傷を残すような体罰は対象から除かれていて、しつけのための体罰だけに限って調査が行われました。

 

 その結果、体罰を受けていたグループでは、前頭葉の中前頭回や前帯状皮質と呼ばれる部分の容積が、平均で14~19%程度減少していたのです。

 

 前頭葉は、脳の中でも人間の思考や行動に強く関わっている部分です。体罰は、脳を萎縮させ、その子の性格を変えてしまう可能性があるのです。

 

DVを目にしただけで子どもの脳は萎縮する

 

 さらに、体罰だけでなく、精神的に不適切な関わりであっても、同様の悪影響がもたらされます。2012年に同じ研究者たちが発表した論文によると、DVを子ども時代に目撃した経験のあるグループでは、後頭葉にある視覚野という部分の容積が、平均で約6%減少していることがわかりました。

 

 これは、性的虐待を受けた子どもたちと似た変化です。見たくないものを見ないようにするため、脳の形態が変わってしまったと考えることができます。

 

 ここでご紹介した脳の容積についての2つの研究は、現在福井大学教授の友田明美先生が中心となって、ハーバード大学で行われたものです。

 

 とはいえ私自身も、言葉で伝えるだけでは限界を感じることもあります。そんなとき、どのように子どもにいいことと悪いことを教えてあげるのがいいのでしょうか。

 

 アメリカ小児科学会が監修しているウェブサイトでは、子どものしつけの方法についても詳しく解説されています。

 

 そこでは、2~5歳の幼児がかんしゃくを起こしている時など、言葉で伝えるだけで不十分な場合に、タイムアウトと呼ばれる方法を勧めています。タイムアウトのやり方は、次のとおりです。

 

(1)「(悪い行動)をやめないと、タイムアウトにしますよ」と警告する。
(2)それでも悪い行動を繰り返したら、部屋の隅など静かな場所に連れて行く
(3)タイマーで時間を測り、年齢×1分間、その場所にいさせる

 

 タイムアウトは罰ではなくクールダウンの時間なのですが、子どもにとって罰のように感じられることを心配する声もあります。その場合には、タイムインという方法もあります。タイムインではクールダウンの時間をとるのはタイムアウトと同じなのですが、タイムアウトと違い、親がそばに寄り添って子どもを落ち着かせます。

 

 いずれにしろ、ママ・パパ自身が冷静になっていることが大切なポイントです。イライラしてしまう時は、子どもの安全を確保した上で、ママ・パパ自身のタイムアウトをするのがおすすめです。

 

 

 以上、森田麻里子氏の近刊『東大医学部卒ママ医師が伝える科学的に正しい子育て』(光文社新書)をもとに再構成しました。世界の最新研究をリサーチして生まれた「使える」育児書です。

 

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