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文章を書くときに意識したい「紙は黒地に白」「webは白地に黒」
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2020.03.07 16:00 最終更新日:2020.03.07 16:00
インターネット上のブログなどを見ても、段落の冒頭で一字下げをしている人がめっきり少なくなったことに気づきます。ヤフーニュースが一字下げの伝統を守っていることは、私のような一字下げ派の旧世代には応援歌になりますが、ヤフーニュースももはや少数派でしょう。
私自身が一字下げを好むのは、世代的な影響もあるのかもしれませんが、自分では紙の書籍を出版する人間だからではないかと考えています。紙の書籍のルールでは、一字下げの伝統がいまだ健在だからです。
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一方、物心ついたときからパソコンやスマートデバイスに親しんできた、デジタルネイティブと呼ばれる人は、「段落の冒頭では一字下げる」「文が終わったらマルをつける」といったルールに抵抗があるようです。
たとえば、LINEのような個人間のやりとりが中心のメディアの場合、マルをつけると冷たい印象を与え、かえって失礼になるとも聞きます。
インターネットの世界では、段落の冒頭を一字下げないかわりに、直前の行を一行空けることで段落を表現します。Eメールなどでよく見かける方法で、インターネットの世界で流通する文章マナーの一つになりつつあるように感じられます。
たとえば、小説サイト等に載っているweb小説には、次のような傾向があります。
(1)場面の転換のさいに空白行が出現する。
(2)会話の前後に空白行が出現する。
(3)ここぞと思う文の前後に空白行が出現する。
まず、(1)「場面の転換のさいに空白行が出現する」ですが、単に場面が転換すると空白行が出現するというだけでなく、場面の転換が大きいほど、空白行の行数が増えるというのが特徴です。
たとえば、時間の経過が長いと、空行を増やす書き手がいます。
「ばたばたしているうちにあっという間に放課後になった。」「あれから2時間ひたすら待っても、彼女が来ることはなかった。」のように一定の時間の経過が感じられる場面になると、空行を増やして時間の経過を示します。
さらに回想の場面から、今思い返している場面に戻ったときは、さらに空行を増やして、場面転換の大きさを示したりします。
つぎに、(2)「会話の前後に空白行が出現する」ですが、これも見やすさと関係がありそうです。
会話文だけで成り立っているような小説は別ですが、地の文のなかにぽつぽつと「 」の会話文が混じるような小説では、会話文が小説の重要な情報であり、アクセントにもなっているので、会話文の前後に空行を入れて目立たせる操作をするようです。
学術論文では、表や図、グラフを挿入する場合、説明のために書かれた文章とは異質の重要な情報なので、その前後を空白行にして見やすくしますが、それと似た操作のように感じられます。
また、複数の「 」が続く場合、さらにそのあいだに空行を入れる書き手も少なくありません。これは、話者交替を明確にし、個々の発話を読みやすくする効果を狙っていると思われます。
そして、(3)「ここぞと思う文の前後に空白行が出現する」ですが、ドラマティックな場面を演出して、用意していた決め台詞を出そうとするとき、前後に空白行を設けてその文を際立たせる手法です。
とくに前フリをしておいて、その直前に大きな空白行を設けておくと、画面をスライド(スワイプ)したときに、その決め台詞が出てくるというしかけを作ることが可能です。
ただし、こうした傾向は傾向にすぎず、書き手によってさまざまです。こうした空白を積極的に使う書き手もいれば、保守的でぎっしり詰まった文章を書く書き手もおり、ジャンルの文体としては確立途上にあるように思います。
web文章のなかでもカジュアルな文体のものは、数行の空白行のなかにぽつんぽつんと文が出現するものがあり、こうした文章の存在は、web文章の特質を表しているようにも思えます。
食事で言えば、紙の文章はフルコース、web文章はアラカルト、あるいはビュッフェスタイルです。紙の文章は形式が整っており、前菜、スープ、魚料理、口休め、肉料理、デザート、コーヒーの順に、最初から最後まできちんと読むことが期待されています。
一方、web文章は、好きなものだけを選んで注文したり、並んでいる料理のなかで必要なものを必要な分量だけ取ったりしてもかまわないようにできています。重要な情報だけを拾い読みしたり、次に来る情報を期待しながら読んだりできるように、情報の空間的な配置に工夫がなされているわけです。
もちろん、両者の中間形態もいろいろありますが、文字が詰まった黒い紙面を前提とし、そこにときどき改行が入る「黒地に白」の紙の文章と、文字のない白い背景を前提とし、そこに黒い文字列を入れていく「白地に黒」のweb文章という違いが、両者の発想の根底にあることは知っておく必要があります。
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以上、石黒圭氏の新刊『段落論 日本語の「わかりやすさ」の決め手』(光文社新書)をもとに再構成しました。読み書きの力がぐんぐん伸びる「段落」の考え方を提示します。
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