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【東京「古民家」再生記】(5)「物置」「離れ」の解体でホコリまみれ
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2016.07.10 10:00 最終更新日:2016.08.03 16:06
200万円で奥多摩に古民家を購入した。家の片付けもほぼ終わり、次に不要な建物を解体することに。ぶっ壊すのは「物置」と「旧フロ小屋」、それに続く「6畳プレハブ」と、古いトイレも兼ねた現役の「フロ小屋」だ。
どこから始めるかというと、やはり一番簡単な物置である。 トタンと板材を張り合わせただけの簡単な小屋なので、力まかせにバールで板を引っぱがし、カケヤでぶっ叩いて壊していく。男3人で1時間ほどで解体完了。
「野郎ども! やっちまえ!」
「うおおお!」
火事場の火消しよろしく盛大に気炎を上げて、次の「旧フロ」に取りかかる。こちらも木板を張り合わせた簡単な構造だ。ずいぶん前から使っていなかったようで、掛矢(大形の木槌)で叩くたびに、ものすごいホコリが舞い上がる。またしても大量の鼻水がズルズルと流れ出し、くしゃみが止まらない。マスクがないとやってられないぞ。
トタンの屋根がメリメリとはがされ、おそらく数十年ぶりに日の目を見たであろう室内が明るみに出た。古いバスタブと風呂釜の隙間から、ニュルッとなにかが顔を出す。15センチはありそうなムカデだ。古い戸棚からは直径8センチほどの大グモがのっそりと表れる。
午後になって本日の大物、プレハブの解体作業に取りかかる。プレハブの解体は、おおむね建てるときと真逆の手順になるらしい。工程としては、 「屋根→梁→壁→柱→土台→基礎」 の順となる。
その前に畳を運び出して窓サッシを取り外し、電気系統を外していく。
「ブレーカー落とさないとね」
「そうだね」
という会話が確かにあったにもかかわらず、なぜか誰もが、そのことをすっかり忘れていた。私がペンチで配線を切断した瞬間、「バチン!」と火花が飛び散った。
「ひえええ!」
驚いて数メートル飛び下がった拍子に、「ズボッ」と床が抜けた。このときにくじいた右足首は、いまもときどき痛むのだが、感電しなかったのは不幸中の幸いだった。
これ以降、電気系統を扱うときは、ブレーカーをきちんとチェックして、切断した部分はテープで完全に絶縁することにした。まったく痛い教訓だった。
次に屋根に登って、トタン釘をひとつひとつ抜いていく。トタンをすべてはがすと野路板(屋根の下地材)が現れ、さらにこれをはがすと、今度は垂木とベニヤの天井板がむき出しになる。
天井板の下は、もうなにもないから、踏み外すと転落する。危ない作業だ。
垂木を1本ずつ外していくと、それだけ足場が少なくなる。最後にはタテヨコの梁しか残らなくなった。下からバールで天井板をつつくと、パリパリという乾いた音とともに簡単にはずれた。天井裏にいたカメラマンと目が合う。
「こ……怖いんですけど」
「危ないよ。無理しないで下からはがした方がいいよ」
「いやだ。だってホコリがすごいんだもん」
天井板の上には、ものすごいホコリが堆積している。最初グラスウールが敷きつめてあるのかと思ったほどだ。
天井はおおむね終わり、今度は梁をはずす。脚立に上がって、直径15センチはある太い梁を「よっこらしょ」と持ち上げると……あれ? 意外と軽い。ノコギリで切ってみると、なんと内部は空洞だった。一見太く見えた梁は、実は薄い板を張り合わせたものだったのだ。
同じように壁板を壊してみると、石膏ボードと発泡スチロールを張り合わせたパネルだった。プレハブというのは安さが売りの建物だけれど、当然ながら安いのにはワケがあるのだ。
次に壊したフロ小屋と比較して、よくわかったことは、プレハブは壊してしまうと、すべてが廃棄物になってしまい、再利用できるものはほとんどないということだった。
一方、伝統的な在来工法で建てられたフロ小屋は、太い柱や梁など、まだまだ活躍しそうな材木がたくさん残った。
現代建築は非常に安くて合理的な構造である反面、一度建てたら再利用が効かない。在来工法は高くつくかわりに、立派な材木を使い、取り壊しても再利用が可能で、おそらく耐用年数も長い。
政府は「200年住宅ビジョン」として、耐用年数200年の住宅建築に補助金を出す政策を打ち出したそうだが、プレハブから出る大量の廃棄物を見ると、確かに妥当な決定ように思われた。
次はいよいよフロ小屋の解体である。しかし我々はここで、ある重大な失敗に気づいたのであった。
「ねえ、もしかしてさ、順番……逆だったのかなあ」
「順番って?」
「フロの方を先に解体しないとダメだったんじゃないの?」
「あ……そうかもね」
どういうことかというと、母屋とプレハブとフロ小屋は屋根でつながっているのだが、山側にプレハブがあり谷側にフロ小屋が建っている。プレハブを先に壊してしまうと、谷側の危険なフロ小屋が孤立することになる。作業の効率や安全性を考えるなら、先にフロ小屋を解体するべきだったのだ。
谷側に建っている四畳半ほどのフロ小屋の屋根に登るのは、かなり危険な作業だ。「イヤなことは後回し」という無意識の選択が、重大な過失を招いてしまったのである。
結局、落下の恐怖に怯えながら母家以外の建物すべての解体作業が終了したわけだが、その後になにが残ったのかというと、それは言うまでもなく「大量のゴミ」だった。さて、これらをどう処分するべきか。
役場に確認したところ、タタミや石膏ボード、バスタブ、ボイラーなどは引き取ってもらえず、廃棄物処理業者に依頼するしかない。
そこで以前、お世話になった三和産業に軽トラックを借り、ゴミを満載して地元の処理業者さんまで搬送した。
タタミの処分料は高くて、1枚2000円(6枚で1万2000円)もした。その他の廃棄物は、1リューベ(1立方m)あたり1万5000円で、今回は1.5リューベで2万2500円。これにタタミ処分料をあわせ、合計3万4500円。意外と高いなあ……。遠くを見つめていたら、3万円に負けてくれた。
業者さんに聞いたところ、トタンはリサイクル業者さんに引き取ってもらうと、いくらかでもお金になるらしい。自治体のゴミ処理場では、トタン板2枚で100円も取られるので、これはおトクだ。さっそく青梅駅前のリサイクル業者「津田商店」を訪ねた。
軽自動車2台分にもなったトタンを計量してもらうと、全部で360キロもあった。そして買い取り値は1キロあたり15円なので……なんと5400円も返ってきたのだ。予想外の臨時収入である。ラッキー!
【今回かかったお金】
ジグソー(電動鋸のこと、リョービ) 8800円
ジグソー(ボッシュ) 7800円
換え刃 5000円
インパクトドライバー 2万2240円
脚立×2 1万2000円
足場板 2380円
ハンマー、バールなど 3410円
農業用防虫ネット 2760円
ゴミ処分料 3万4500円
トタン売却 −5400円
小計 9万3490円