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日本で「博士」になると「高学歴ワーキングプア」が待っているライフ・マネー 投稿日:2020.04.13 11:00

日本で「博士」になると「高学歴ワーキングプア」が待っている

 

 修士課程修了後、本人の希望があり、かつ入学試験に合格できれば、大学院生は博士課程に進学する。実はこの段階で、院生はさまざまな人生の選択をしている。

 

 博士課程に進学すると、進路の幅がぐっと狭くなる。事実上、民間企業などへの就職をあきらめることになるからだ。民間企業が重視するポイントは、残念ながら専門性ではなく、人柄やコミュニケーション能力なのである。

 

 

 もちろん例外はあるが、民間企業の研究所などでは、博士の学位を持つ院生の求人は少なく、博士の就職先は大学や一部のシンクタンクなどに限られる。それを反映してか、2016年度の博士号の取得者は約1万5000人となり、10年前から10%以上減った。日本では低学歴化が進行しているわけだ。

 

 なお、日本では「高偏差値大学」の卒業生を「高学歴」と称するが、不正確だ。本来、高学歴とは、大学院博士課程を修了し、博士号を持つ者を指すのだ。

 

 諸外国では事情が異なる。

 

 たとえばGAFAと呼ばれるグーグルなどの巨大ハイテク企業に入社するには、修士号か博士号は必須だ。もちろん高学歴であればあるほど高収入となる。

 

 たとえばアメリカで、特定の分野の博士号を取得すると、平均年収は1.68倍となる(文部科学省の資料。「日本経済新聞」2019年12月8日)。しかし、日本で博士号を取得すると、企業に入れないだけでなく、高学歴ワーキングプアの可能性すらある(!)。

 

 博士課程の入学試験では、修士論文の口頭試問(論文に対する質疑応答)がある。だから、修士論文の指導教員がそのまま博士課程の試験委員となる方が有利だ。こういう点から、修士課程から博士課程に進学する際には、指導教員である教授や准教授の意向が大きく反映するといえる。

 

 博士課程では、専門性を高めるため、より高度な研究をする。いいかえると、研究の一般性が低下し、企業などでの研究には向かなくなるわけだ。

 

 博士課程に入ると、大学院生はドクター(の院生)と呼ばれ、研究者の卵として、専門雑誌に論文を投稿したり、学会で口頭発表をしたりして、研究活動に従事する。これらは全て研究業績となるので、ドクターの院生はひたすら研究に集中しなければならない。

 

 博士課程の3年間の年限の中で、ドクターの院生は博士論文の執筆に取りかかる。その際には、指導教員の指導が非常に重要だ。それは、実験の仕方から始まり、論文の書き方、その際の引用の仕方(本来、修士論文で身につけるものだが)まで、指導は多岐にわたる。ドクターの院生にとっては、この時期は緊張の連続であり、正念場だ。

 

 中には3年間で博士論文が完成せず、4年、5年とかかるものもいる。大学には「2倍ルール」というものがあり、「裏表」合計6年間在籍できるが(3年×2)、とても辛い。奨学金などは正規の3年で打ち切られ、学費だけは毎年かかってくる。その分年齢も重ねるし、30歳を過ぎて無職の日々が続くのは、相当のプレッシャーだ。

 

 博士の学位を取得するには、執筆した博士論文が受理され、最終の試験(口頭試問と外国語の試験)にパスし、大学院の教授会での決議を経なければならない。その場合、主指導教員(いわゆるボス)は主査として口頭試問の審査員となる。

 

 そもそも論文を提出する際には、主指導教員の印鑑というか合格(認定)が必要だ。これがないと、博士論文として審査の前に受理されない。これが指導教員の権限だ。

 

 しかも、博士課程を修了したあと、大学などに就職を希望するときには、指導教員の推薦状が不可欠だ。博士課程に進学したドクターの院生にとって、指導教員の指示がいかに強力か、おわかりいただけただろう。

 

 ドクターの院生が博士論文を提出し、口頭試問にも合格して教授会の審査を通れば、晴れて「博士(○○)」になる。○○には博士号の科目が入る。たとえば「博士(理学)」というように。

 

 大昔、「末は博士か大臣か」という言葉があった。出所ははっきりしないが、どうも菊池寛のことを描いた映画のタイトルらしい。かつて博士号は、大臣並みの希少価値があったのだ。しかし現在では、博士号を取得しても、大学などへの就職は厳しい。

 

 ある院生が、博士課程を修了して3年以内に博士論文を執筆し、博士号を取ったとする。ここまでは順調だ。前述の通り、博士課程を修了するのに5~6年かかる人もいる。

 

 しかしそこまでしても、博士号取得後、ただちに大学に正社員として就職できる人はかなり希だ。このように博士号を取得したが、正社員として就職せず(できず)に研究を続ける人がポストドクターだ。

 

 ポストドクターの多くは、任期付の(契約社員的な)助教や研究員のポストに就くことになるが、非常勤講師などのアルバイトで生計を立てる人も多い。

 

 たくさんポスドクがいる研究分野で、大学が教員を公募(公に募集)すると、募集1名の枠に数十人の応募がある。採用確率はかなり低い。予め候補者が決まっている出来レースでない限り、宝くじに当たるようなものだ。何度も公募に応募して落ち続けると、人生、「お先真っ暗」になる。

 

 履歴書を何回送っても、「この度は、ご縁がなく……」という返事が来るか、無視されるのは辛い経験だ。

 

 いつの時代も、子どもに「将来なりたい職業は何か?」と尋ねると、研究者という答えが上位に来る。しかし現実は、博士号を取っても、正規雇用の研究者職に就くのは厳しい。分野によっても異なるが、狭き門だ(ポスト自体がないと、はじめから無理な場合もある)。

 

 

 以上、山田剛志氏の新刊『搾取される研究者たち 産学共同研究の失敗学』(光文社新書)をもとに再構成しました。企業からの無理難題、研究者を守らない大学、心を病む助教、院生…搾取の実態を白日の下に!

 

●『搾取される研究者たち』詳細はこちら

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