■風呂の髪1本、床のゴミひとつも徹底排除
「写写丸さんには露天風呂をやってもらいましょう」
屋外に素足で出る。冷気が頬をなで、見上げると月がポッカリ浮かんでいた。寒い。身も心も凍りつきそうだ。
「浴槽に付着した垢を洗って、カラン周辺も徹底的に髪の毛を除いてください。仕上げに熱い湯を流すと、乾きも早くなりますよ」
中腰での作業は見た目以上にキツイ。風呂に水滴が残らないように大きなタオルできれいに拭き取る。拭き終わったら、LED懐中電灯で入念にチェックし、垢をガムテープで取っていく。
「露天なので鳥が糞を落とすこともある。だから、お客様が浴槽を使う使わないに関係なく、掃除するんです」
次に室内の床掃除。掃除の動線を乱すと効率が悪くなるので、奥から入口に向かい、順番にコロコロをかける。驚いたのが、1部屋でロール紙を5回も替えている点だ。たしかに他人の髪の毛が1本でも見つかると不愉快な気分になるもんね。
最後に備品をチェックし、10分あまりで清掃終了。ちなみに、忘れがちなのが食器棚のコップについた口紅や指紋の確認だ。とにかく前のカップルの「存在感」を徹底的に排除するのが重要なのだ。
スタッフルームに戻り、部屋の使用状況がひと目でわかるモニターを見る。ほとんど休憩のお客さんばかり。電子音が鳴った。客室からの注文だ。無料コスプレの注文だった。そういえば、さっきあったサンタの衣装が消えている。どこかのカップルが「プレゼントは私よ」なんてやっているのだろうか。
ホテルの担当者によると、いまは女性がホテルを選ぶ時代なのだという。そこで女性客のために100種類を超えるコスメを無料レンタルしたり、話題のシリコンオイルシャンプーも多数置いてある。
男性向けにも電気シェーバーやボディシェーバーなどの有料レンタルがあり、さらに磁気枕から頸椎(けいつい)安定枕、ゲームや映画ソフトも充実。こうしたサービスが高いリピーター率につながっているようだ(もちろんシェーバーに残ったひげを綿棒でこそぎ落とすのも裏方の仕事)。
時計を見たら、夜8時過ぎ。すでにかなり疲れているが、「ピークは10時過ぎ」という。たしかにその後、一気に宿泊客でいっぱいになった。すると、「これで朝まで清掃作業はありません。お疲れさまでした」と突然言われた。
え? もう終わり? じつは全部屋が宿泊客だから、もう今晩の仕事はないのだ。なんだか終わりはずいぶんあっさりである。
かつてバブルのころは、深夜近い時間でないと宿泊できず、ラブホ街には手をつないでウロウロする恋人たちが溢れていたという。だが、担当者は、「それは昔の話」と一笑に付す。