性風俗産業の市場規模については諸説あります。
たとえば、実際に風俗店を経営していたこともあるコンサルタント・モリコウスケさんは、『デリヘルの経済学』(2007)の中で、風俗の市場規模は5.6兆円以上であると推定していました。
広告産業が約5.8兆円(2012)、旅行産業が約5.9兆円(2013)。モリさんの説が正しければ、性風俗産業は、誰もが「大きな市場」だと認識できるこれらジャンルと、ほぼ同程度の大きさを持っていることになります。
ただし、経済学者の飯田泰之さんは、『夜の経済学』(2013)の中でこの推定を少々過大ではないかとし、風俗嬢の平均収入や風俗店の店舗数などを元に3.6兆円という数字を導き出しています。
また、風俗関係のルポライターとして知られている中村淳彦さんも、『図解日本の性風俗』(2016)の中で、やはり同じような手順から風俗の市場は2.3兆~2.7兆円であると推定していました。
2.3兆円から5.8兆円となるとかなりの振れ幅があります。モリさんの推定がリーマンショック以前のデータを元にしていることをふまえても、やはり下方修正の方が説得力はあるかもしれません。
しかし、仮に2兆~3兆円台が性風俗産業の市場規模とした場合も、かなりの巨大市場であることには変わりありません。これは製菓、化粧品、ブライダル市場などとほぼ同程度の大きさです。少なくとも、出版や新聞の倍以上の市場規模を持っていることは間違いない、ということになります。
それでは、これだけの市場規模を持つ風俗の世界で、風俗嬢として働いている女性はいったい何人いるのでしょうか。
先ほども名前を出した飯田泰之さんは、全国の風俗店の推計稼働店舗数と、一店舗の推計在籍人数をもとに、風俗嬢と呼ばれる働き方をしている人は全国におよそ30万人いると推定しています。
30万人というと、沖縄県の那覇市や、三重県の四日市市などの人口と肩を並べる人数です。風俗嬢の年齢別ボリュームゾーンである20~29歳の女性に限った場合、20人に1人が関わっていてもおかしくない数値になります。
なおこれは、店舗に所属しているなど、外部からその働き方を認知できる状況にある風俗嬢の数です。届出のない違法店で働いている女性や、いわゆる「ワリキリ」のような、個人での売春行為を行っている女性の数を正確に把握することはできません。そう考えると、この数字がもっと大きくなる可能性もあります。
このように、市場規模と風俗嬢の人数を見るだけでも、夜の世界の規模が、かなりの大きさであることがわかります。多くの人はその事実を知らないけれども、性風俗業界は推定2兆~5兆円規模の一大産業として日本の経済圏に属している。
そして、そこには30万人以上ものプレーヤーと、その何十倍もの人数のユーザーがいる。このことは、まぎれもない事実なのです。
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以上、角間惇一郎氏の新刊『風俗嬢の見えない孤立』(光文社新書)から引用しました。