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なぜ風俗嬢は「夜の世界」から足を洗えないのか

夜バナ 投稿日:2017.04.28 16:00FLASH編集部

なぜ風俗嬢は「夜の世界」から足を洗えないのか

『写真:AFLO』

 

 はじめまして。僕、角間惇一郎は、「夜の世界の課題解決」に取り組む一般社団法人GrowAsPeople(以下、GAP)の代表理事です。2010年から7年、夜の世界の中でもとりわけ、性風俗産業に従事する女性……一般的に「風俗嬢」と呼ばれる方々の相談事業、就労支援を行ってきました。

 

 GAPは、風俗嬢の女性たちにどんなサービスを提供しているのか。まずは、本人の希望を元に、GAPが提携している企業やNPOでインターン経験を積んでもらう。そこで履歴書に書ける職歴やスキルを身につけさせ、ゆるやかに昼の仕事に移行してもらう。この方法で、今までに40人ほどの就労支援を行ってきました。

 

「いつかはやめる」だなんて悠長なことをいっていないで、風俗の仕事なんてすぐにやめさせればいいじゃないか。みなさんの中には、そう思われる方も大勢いらっしゃると思います。そうした考え方が、むしろ多数派でしょう。僕もGAPの活動の中で、よくこんな意見をぶつけられてきました。

 

「風俗の仕事なんて、女性にとってはリスクしかありません。ただちにやめさせるべきです。転職先ならいくらでも斡旋はできます」

 

 僕に対してそう力説するのは大抵、女性の人権についての活動をしている方です。性風俗産業は性的搾取のビジネスであり、女性に対する人権侵害だから、一日でも早くやめさせなければいけない。彼・彼女らは、そうした主張を持っていることが多いです。

 

 そうした考え方の人には、僕たちの「時間をかけて昼の世界に移らせる」という支援方法が、かなり風俗に対して肯定的、つまり人権侵害的に見えるだろうとも想像がつきます。しかし、僕たちはそれでも、「すぐにやめさせる」支援はしません(もちろん搾取型は別です)。

 

 これには明確な理由があります。昼の仕事にいきなり転職させると、ほとんどの女性はまた、夜の世界に戻ってしまうのです。これは、風俗の仕事を副業ではなく本業にしている人に顕著な傾向です。

 

 僕も夜の世界に関わり始めた当初は、「すぐに転職できるなら、それにこしたことはないだろう」と考えていました。そうやってすばやい転職の後押しをしたこともありますし、さっさと転職先を見つけ、さっさと夜の仕事をやめる女性も多数見てきました。彼女たちのことは、むしろ「成功例」だと思っていたものです。

 

 でもそうではありませんでした。数日から1ヶ月も経つと……ときには一日で、彼女たちは夜の世界に舞い戻ります。「就職先が見つかった」といって、逃げるように夜の世界から出ていったにもかかわらず、なぜでしょうか?

 

 それは、生活リズムや労働意識、経済観念をいきなり「昼仕様」に変えるのは、当人や周りが思っている以上に難しいことだからです。

 

 風俗の仕事、とりわけデリヘルの働き方は、昼のそれとまったく違います。365日・24時間好きなときに出勤できて、数時間働けばその日中には報酬が手に入る。そんな夜の世界に対して、昼の世界の常識は「週に5日8時間ずつ働き、遅刻は許されず、給料が振り込まれるのは1ヶ月先で、その報酬は夜の仕事の数分の1」というもの。共通するところがほとんどありません。

 

 毎日同じ時間に起きて、同じ場所に出勤すること自体ができない人。自分の収支を把握し、家計をコントロールする習慣が身についていない人。風俗嬢の働き方に慣れた女性の中には、そんな人がいくらでもいます。彼女たちがいきなり転職しても、肉体も精神も順応できず、昼の仕事を続けることができなくなってしまうのです。

 

 そもそも、風俗の仕事は辞めるのに何の手続きもいりません。そのため、夜の世界から自分の意志で遠ざかる人自体は無数にいます。

 

 しかし、彼女たちの「脱・風俗」はなかなかうまくいきません。昼の世界に飛び込んでは、「全然お金がもらえない」「風俗の方が楽」と夜の世界に舞い戻る。そうやって夜の世界を出たり入ったりする女性が、実は大勢います。

 

 昔は、こうした生活習慣的な部分からGAPで指導するべきかと思い、風俗嬢向けの「お金の管理の仕方セミナー」を開催したり、資格勉強の指導をつきっきりで行ったりといった密なサポートも行っていました。

 

 ところが、これもあまりうまく実を結びません。セミナーのことは「他の人と顔を合わせるのは嫌だ」と避けられる。資格勉強の指導をした女性には、後日「試験の朝、寝坊したから受けるのをやめた」と報告されてずっこける。そんなことが日常茶飯事でした。

 

 こうした女性たちの態度に対して、「風俗嬢はやる気がない」「なんで普通にできないんだ」などと腹を立てても意味がありません。良い悪いではなく、単に「そういうもの」なのです。僕にとって重要なのは、こちらの思い通りにならない彼女たちに怒ることではなく、「そういう人でも使える仕組み」を提供できるかどうかだけです。

 以上、角間惇一郎氏の新刊『風俗嬢の見えない孤立』(光文社新書)から引用しました。

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