2017年10月22日、両国国技館でおこなわれたWBA世界ミドル級タイトルマッチは、
挑戦者・村田諒太が王者・アッサン・エンダムに7回終了TKOで勝利し、念願のベルトを奪取したボクシング史に残る日となった。
村田は試合後も、家族での短い旅行を除けば、後援会や関係者への挨拶、メディア出演、多くの取材への対応などで忙しく過ごし、2018年4月をめどに予定されているという初防衛戦に向け練習を再開している。
そして、その歴史的な夜となったリング上で、ゲストとして挨拶したのがキックボクシング界を牽引するRISEバンタム級王者の那須川天心である。来場していたボクシングファンからの温かい声援と大きな拍手は、若きファイターへの期待度のあらわれだったのであろう。
帝拳ジムで那須川がボクシングの練習をすることがあり、2人に面識はあった。2017年12月、都内のスタジオで初対談が実現した。
村田 わりと人見知り? 緊張している?
那須川 緊張しています(笑)。こういうところってすごいですね。喫茶店みたいなところを想像してたので……。
―― お会いしたことはあると思うのですが、きちんとお話するのは今日がはじめてだと思います。お互いの印象を教えてください。
村田 大人からいきますね(笑)。いま、キックボクシングとか格闘技とかで、また新たにブームを作ってくれている選手という印象ですね。帝拳ジムで一緒のときがあったり、葛西さんのジムのオープン時のイベントでご一緒させてもらったりとそれぐらいなので、本当にこういう場に出ると、その微妙な距離感がよけいにこそばゆいみたいな。もともとまったく何も知らなかったら、逆に話しやすかったりするのですが、微妙に知っているだけに、ちょっとジャブというか、探りをいれていきたいなと思います(笑)。
那須川 すごく大きいなと思いました。テレビで見たり、会場で見たりはしていたのですが、なかなか間近で見ることができなかったので。すごく話しやすくて安心しました。
――那須川選手は村田選手の試合は観たことがありますか?
那須川 はい。何度かテレビでも会場でもあります。
―― 10月22日の試合ではリングにも上がりました。雰囲気や声援はどうでした?
那須川 5月の試合も観たんですけど、結果は判定で負けてしまったんですが、僕はずっと勝ちだろうと思っていて。それで再戦が決まって、テレビで見るつもりだったんですけど、会場に行くことになって、すごくワクワクしていました。リングサイドで観れたので、これが世界のトップファイトなんだと思って、自分のモチベーションになりました。ちょうど僕も試合前だったので、モチベーションはより上がりました。
―― 村田選手は那須川選手の試合をご覧になったことは?
村田 僕はこの前の藤田大和との試合(2017.10.15 那須川の3R判定勝ち 3-0 RIZIN MMA 特別ルール)を観ました。僕はどっちかというと、大和サイドで応援していました。大和が16歳ぐらいのときから知っているし、ましてや総合とかキックボクシングとかのデビュー戦で、キック界のスターと試合するということだったので。僕はやっぱり下馬評が不利な方を応援したいっていう精神が働いてね。それで大和寄りの、といっても6対4ぐらいで大和の応援を。ライバル的なこととかで言うと、彼から見たら大和はまだライバルでもないレベルなのかもしれないけど、苦戦しているようなシーンを初めて見たので。苦戦させてくれる相手っていいなぁと思いました。格闘家っていうのはストーリーみたいなのが必要なんですね。ただ強いだけだったりとか、1人の存在ではなかなか人気が出ないので、ライバル同士の構図というのは必要だと思うんです。格闘技は特にですし、スポーツ全般でそういうのは盛り上がると思うので。だから、あの試合で大和が善戦してくれたのは、非常にいい形だと思います。スポーツ全体がライバルっていう構図が好きですし、例えば100メートルも桐生くんとか山縣くん、サニブラウンくん、ケンブリッチくんらがいたからおもしろいし、そのなかで切磋琢磨したからこそ、桐生くんのあの数字が出たってことがあると思うんですよ。一強だとダメだと思うんです。まして格闘技って、そのストーリーがないと。ただ、強いやつが殴って勝っただけだったら、なかなか盛り上がるところではないんで。だから、RIZINとかの世界だったら、ライバル関係としていちばん実力が近い関係であるふたりが、今後、どのようなストーリーを見せてくれるのかが、命運を握っているのかなって思いますね。
―― たしかにあの試合を観た人は、「藤田大和、強かった」って思ったり、「那須川はあの藤田から完璧なタイミングのパンチでダウン取ったね。やっぱり那須川強いな」って、会場行った人は思っただろうし。両選手の評価が上がった試合でしたよね。那須川選手は試合後、藤田選手は強かったと話していましたが。
那須川 そうですね。ルールも総合で、藤田選手はずっと総合の練習をしてるって聞いていたんで、強いだろうなって思っていたら、やってみたら本当にパンチもできますし、蹴りも組みもできますし、なかなか手ごわい相手だなと。でも戦いの中で、自分の成長もできましたし、5分3ラウンド、15分戦うことはなかなかなかったので。この前も試合があったんですけど、藤田選手との試合があったからこそ、KOで相手を倒すことができたので、すごくいい一戦だったと思います。
―― 村田選手から「勝って当然と思われる」という言葉が出たのですが、試合するプレッシャーに加えて「勝って当然」と思われるプレッシャーは、どのように考えていますか。
村田 勝たなきゃいけないとか、勝って当たり前というプレッシャーは常にあるんで、プレッシャーがなくなるとは考えないことですね。プレッシャーを持ったまま戦って、それも含めて自分の実力だと。プレッシャーがない状況で戦って、いつもの自分のパフォーマンスができるとか、そういう気持ちにならないことですね。むしろプレッシャーを引き連れていって、それも含めて自分の実力なんだと受け入れるほうが、僕にとっては重要かもしれないですね。
―― プレッシャーも一緒に戦うと?
村田 プレッシャーがない選手はいないですからね。立場によっては感じにくい選手っていますけど、その選手も、例えば感じにくい状態でアンダードッグとして出て勝った。勝った次に出るときは、もうアンダードッグではなくなっているわけで、勝っていけば当然、そういうプレッシャーがある立場になる瞬間が来る。だから、プレッシャーを否定することはできないし、受け入れることが僕にとっては重要だと思います。
那須川 僕はわりと感じないタイプですね。そういうことは考えない。プレッシャーは多分、多少はあると思うんですけど、どうしよう、どうしようって思っていてもいい方向には進まないと思うので。僕は本当に考えずに相手を倒すために今までやってきたことを全部出すってことを考えてやっています。
―― 試合へのコンディションの調整、整え方はどうやっていますか?
那須川 僕はジュニアの頃からずっと毎週、毎週、試合をしてきているので、けっこう慣れたっていうか。僕はスパーリングをあまりやらないんですが、とりあえずマスとかで。スパーリングをやるとケガしたり、キックなんで蹴りをもらったりするし、僕は本当にマスとかで、あとはシャドウとかを多めにやって整えているって感じですね。試合が終わってもまたすぐ試合って感じなんで、そのリズムに慣れているので、僕はもうあんまりコンディションとかは意識しないですね。
―― 村田選手の次戦は?
村田 まだ何も決まっていないですが、4月ぐらいって聞いています。
―― 次戦まで、トレーニングやコンディションはどのようにして保っていますか?
村田 トレーニングはずっと続けていますし、僕はシェイプを崩したことはないので、普通にやって試合が決まれば、普通に自然と気持ちにも入ってきますし、あまり特別ああしよう、こうしようという意識はないです。自然に生活のルーティンがそうなっているので、普通ですね。
―― 特に気持ちを上げてこう、とかはやらずに?
村田 やらないですね。むしろ、そういう意識を持っちゃダメですね。上げていくのだと思って、そういうスイッチを入れちゃうと。スイッチは勝手に入るもの。
―― 今までずっとそうやってきた?
村田 そうですね。スイッチを入れるんだって思うと余計な力みになりますし、自然と入ってきますしね。あまりそういう考えは持ってないです。