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100均ウォッチャー「吉田戦車」ニッチ商品は生物の進化みたい

連載FLASH編集部
記事投稿日:2019.06.12 11:00 最終更新日:2019.06.12 11:00

100均ウォッチャー「吉田戦車」ニッチ商品は生物の進化みたい

 

 故郷、岩手県奥州市の100円ショップを数店回った。平成の30年間でみるみる成長し、一大産業となった商業形態といえば、この「100円均一ショップ」だろう。

 

 ウィキペディアによれば、1985年に、ライフという会社が「100円ショップ」という店名で営業開始、とある。「ダイソー」が100円均一ショップの直営店を開店したのが1991年。平成の人々の消費は100円ショップと共にあったといっていい。

 

 

 最近は均一ではないが、以下「100均」と略す。100均がどんどんポピュラーになっていった時代とはいえ、平成前期の比較的若い頃、私はあまり利用していなかった。

 

 仕事道具は文具、画材店で買っていたし、台所用品も、デパートや専門店で、プロユースっぽいものを買うことに喜びを感じていた。というか、初期の100均は「値段なり」の安っぽいものが大部分だった印象がある。

 

 だが100均は進化し続け、どんどんおもしろみが増していき、平成中期には、私のそぞろ歩きコースになくてはならない店になった。

 

 たとえば、コミックスが売られていた時期があった。もう流通していないかつての名作的なラインナップで、『巨人獣』(石川球太)などを買った記憶がある。川のせせらぎや野鳥の声が入っている環境音CD、『北の大地 北海道からの便り』は、今でもたまに聴いている。

 

 というように、年々100均依存度は高くなり、角型ステンレストレイ、コインケース、以前とりあげた「スマホスタンド」など、愛用している品物も多い。

 

 故郷の100均はどこもフロア面積が広く、うちの親も含め、人々の暮らしになくてはならないものになっているようだ。それでいて、何か買いたそうなご主人に、奥さんが「何もいらない!」とピシャッというところも見かけ、実に100均らしい。

 

 せまい東京の100均しか知らない小学生の娘には、クラフトコーナーが宝の山に見えるそうだ。

 

 一人で帰省した今回は、そのへんの何が欲しいのか見当もつかず、東京でも買えるだろうなと思いつつ、みやげに「ピンポンセット」を購入。まさしく「子供だまし」の権化のようなオモチャなのだが、もしかしたら楽しめるかもしれない、というオーラが出ていた。

 

 品ぞろえは、各社共通の定番商品がもちろん大多数だが、売れればめっけもの、みたいな考えで企画会議を通ったとしか思えない細分化商品も見かける。

 

 ベニテングタケの形の「きのこ印鑑ケース」とか。炊飯器でご飯と同時におかゆが作れる「おかゆカップ」とか。「缶バッチカバー」とか。缶バッチを傷や汚れから守る必要がある人が、世の中にどれだけいるのだろうか。

 

 古生物の「進化の系統樹」ってあるでしょう。あれの、細かい枝分かれの先っぽの、牙が変な生え方をしてるような、妙な方向に進化して絶滅してしまった生物を、100均で見ているような気がすることもある。

 

よしだせんしゃ
マンガ家 1963年生まれ 岩手県出身「ビッグコミックオリジナル」で『出かけ親』、「ビッグコミックスピリッツ」にて『忍風! 肉とめし』を連載中。妻はマンガ家・伊藤理佐さん。近刊に本連載の単行本『ごめん買っちゃった』(光文社)、『出かけ親 1』(小学館)が発売中!

 

(週刊FLASH 2019年5月28日号)

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