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番記者が書く「貴乃花との30年」見よ、鬼の相撲道

スポーツFLASH編集部
記事投稿日:2018.04.15 16:00 最終更新日:2018.04.15 16:00

■異様な緊張感があふれる稽古

 

 中野新橋に部屋があった時代、貴乃花部屋の玄関には「十の訓辞」が掲げられていた。江東区東砂に部屋が移転してから、じつは残念ながらここ数年、貴乃花部屋の稽古取材は公開されていないが、同部屋のホームページにいまもその「訓辞」が残されている。ここでは中野新橋時代も含め、私が現場を取材して見聞きしたことを記しておく。

 

 まずは、「十の訓辞」の九番めに「三六五日を鍛え三六五日以後に結果を求めない事」とある。とにかく、鍛え続けろという意味だ。

 

 これに代表されるように、貴乃花部屋には、とくに入門当初の力士に課されるノルマがある。

 

●ランニング5キロ、100メートルダッシュ1本
●縄跳び500回、片足ずつ50回、二重跳びを失敗なしで50回

 

 貴ノ岩も入門当初は毎日このノルマをこなして部屋の関取第一号になった。

 

 稽古は日の出前から始まる。ほかの部屋なら2時間程度で終わるが、ときには4時間近くになることもある。四股、鉄砲、水入りのない申し合いや、ぶつかり稽古と続く。

 

 親方が稽古場におりてくると、稽古場には異様な緊張感が充満する。褒め言葉など、いっさい聞かれない。

 

「そこを押し切れ」「死ぬ気でやれ」「稽古をナメるな」と、鬼の形相で弟子たちに檄を飛ばす。いや、檄を飛ばすというより、檄を突き刺す、という表現のほうがぴったりとくる。短い檄は先代もそうだった。

 

 稽古場では私語はもちろん、われわれ記者たちが物音を立てることさえ許されない。「出て行ってもらえ」と、取材途中で部屋の外に出された記者を何人も見た。それも、先代から継承している稽古の流儀だ。

 

 たとえば真冬の取材でも、稽古終わりには記者たちまでもが汗が出てくるほどの熱気だった。この稽古を取材するたびに、その光景は「脳裏に焼きつけられる」というよりも、「自分の体温に刻み込まれる」という気がした。正直、大の大人が感動すらするのだ。

 

 いかに貴乃花部屋の稽古が厳しいものか。それはほかの部屋と比較すると一目瞭然だ。どこの部屋とは言わないが、私語や笑顔まで見られる稽古とは、次元が違いすぎる。

 

 ある貴乃花一門の親方は、「ウチの部屋の若い衆を貴乃花部屋に合宿に出すと、明らかに強くなって帰ってくるんです」と苦笑いしながら話していた。

 

 また、貴乃花親方が弟子たちを指導する「仕草」、その「立ち居振舞い」、なにより「背中」が、かつて若貴兄弟へ鬼の稽古をつけていた、父である先代に瓜二つに私には見えた。

 

「先代にとっても似てきたよ」と言うと、「そうですかぁ。いやぁ、まだまだ」と照れ笑いしていたものだった。

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