芸能・女子アナ
談志一門初の女性「立川こはる」が乗り越えた男尊女卑の壁
芸能・女子アナFLASH編集部
記事投稿日:2019.10.08 16:00 最終更新日:2020.03.01 06:26
●女流のハンデを克服するため、「男らしさ」と「女らしさ」を追求
こはるが前座修業を始めて5年後の2011年11月、一門の絶対的存在だった家元・談志が、ガン闘病のすえ息を引き取った。そしてこのころから、一気に落語界のシステムが変わっていくことに。
「家元・談志の名前がつく会に行けば、身分が保障されていた立川流の前座たちも、一門の仕事だけでは立ち行かなくなり、外部や他流派とのお付き合いを避けてはいられなくなりました。
また、立川流への “差別” も、他流派の世代交代によって薄れていき、流派を超えた落語会が開催される機運が高まってきました。私が『二ツ目』に昇進したのは、そんな “潮目” の時期でした」
談志が亡くなり年が明けた2012年の春、師・談春により、こはるの昇進が認められた。立川流の昇進基準は、落語界全体でも「厳しい」とされるが、こはるは1回で試験に合格し、2012年6月に二ツ目に昇進した。二ツ目になると初めて、表立って自分の落語会を開けるようになる。
「私はいま、主催する独演会からゲストでお招きいただく会まで合わせて、年230本以上の落語会に出演させていただいていますが、これは従来の落語に造詣の深いファンだけではなく、新しいお客様が増えたお陰です。
さらにここ数年は、他流派で実力のある二ツ目の方々と、積極的に “他流試合の会” をして撒いた種が、ようやく芽を出し始めています。『いままで寄席に出る落語家しか見なかった』というお客様も、私の会に来てくださるようになりました」
一方、新しいファンの増加に背中を押されて、「長年の課題」は解決に向かっている。
「初めて高座に上がった2007年1月、私の落語に嫌な顔をされていた落語ファンのおじさま方の顔が、脳裏に焼きついています。入門前に観客として見ていたときと、同じ光景がそこにありました。
それから13年、“女流差別” は、ほとんどなくなりました。それは女流落語家たちがそれぞれ、年々増えてゆくお客様に、『男性とは違った落語のおもしろさ』を提示してきたからだと思っています。自分が開拓する気持ちで、挑戦してきた自負もあります」
江戸時代に生まれて以来、落語はずっと男尊文化であり、落語の登場人物たちは、女性も含め、“男性から見た人間像” で作られてきた。では、こはるの「挑戦」とは、どのようなものだったのか。
「入門以来ずっと、短髪にすっぴん、男着物で通していますし、ほかの女流の方々と違い、いわゆる “色艶” には、頼らない道を進んできました。でも、それは表面的なこと。どうしたって性別差は出てしまうんです。
男性が落語に取り組むときは、何のハンデもなくしゃべれますので、たとえば噺の大部分を占める男性のパートで『ここで笑わそうかな』というマインドになります。
対して、私がやるときはまず、女の声なのに男の人同士の会話を自然に再現することが、すごく大変なんです。『声を潰して低くする』という努力をしたこともありました。
それから、とくに若手の男性には、地声そのままに喉で発声する落語家が多いのですが、私は『下手でいいからデカい声でやる』という教えを受けたこともあり、声の質とボリュームを男声に寄せるために、腹式呼吸でしゃべれるよう訓練しました。お陰で、運動は苦手でガリガリなのに、腹筋が割れている『落語ボディ』ですよ(笑)」
男尊文化に馴染むための努力をする一方、「女性の戦い方」も見出している。
「『落語の登場人物たちが、いま目の前で実際に生きているような空気感』を作るよう心がけています。
具体的には、笑いの量よりも “親しみと可笑しみ” を優先し、『男同士の会話って、こういうノリあるよね』と、女性のお客様でも共感できるような、『自然な会話』を再現します。女性の登場人物についても、女性らしくが強くなりすぎないよう、同様の方法をとっていますね。
これはつまり、『女らしい声色やしぐさ』を武器にするのではなく、女性の視点を活かした『共感性』で勝負するということ。男性に近いトーンで同じ噺をやっても、表現のアプローチを “女性的” にしているんです」
“女性差別” を技術的な工夫で克服してきた彼女には、いま新たな課題が見えている。
「私の定期会で見え始めてきていますが、物心ついたころから SNSで『いいね!』に慣れ親しんでいる若い世代の方々には、いままで頼ってきた笑いのツボが通じないんです。
たとえば、落語の世界ではおバカでおなじみの『与太郎』というキャラが活躍する、『金明竹』という落語があります。
これまでは、おじさんがグチグチ小言を聞かせて、与太郎がズレた返答をするのが笑いのポイントだったのに、ウケない人が出てきているんです。『おじさんが若者をイジメている』と見えるそうなんですね。
体験も想像力も違っている世代に、従来どおりの落語は引かれてしまうわけです。だからたとえば学校訪問など、若い世代が多い場で向けて同じ話をするときは、逆におじさんのほうを『うっとうしいオヤジ』にして落とします。
いまの若い世代に訴求していくためには、そうした『共感ポイント』を掴んでおく必要があると思っていて。まだ、その重要性を叫んでいるのは、私だけかもしれませんが(笑)」
「女流差別」と「立川流差別」という2つの “差別” を乗り越えて、独自の道を切り拓いてきたこはる。これからも、前人未踏の道をゆく。
たてかわこはる
1982年10月生まれ 東京都出身 落語立川流所属の落語家。2006年、東京農工大学大学院を中退し、立川談春に入門。2012年6月、二ツ目昇進。現在は年間230本超の高座に出演。2016年にアニメ『昭和元禄落語心中』(TBS系)で声優デビュー。以降、『まる得マガジン』(Eテレ)、『BS笑点』(BS日テレ)とテレビ出演が続く。『セブンルール』(フジテレビ系)の2019年7月23日放送回で取り上げられ、独演会は満員に。10月21日に収録がおこなわれる『NHK新人落語大賞』の本選に、2017年に続き2回めとなる出場が決定
※11月22日に「横浜にぎわい座 小ホール のげシャーレ」、12月15日に「新宿文化センター 小ホール」で定期独演会を開催。予約・最新情報はツイッター(@koharunokai)と公式ホームページにて