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アメリカで続く「医療用品」争奪戦、州の購入品を政府が押収も

社会・政治 投稿日:2020.04.22 16:55FLASH編集部

アメリカで続く「医療用品」争奪戦、州の購入品を政府が押収も

米国に輸入された医療用品(写真:AP/アフロ)

 

 マスクやガウンなど医療用防具(PPE)の不足が長期化するなか、アメリカではかなり手荒いPPE集めが続いている。

 

 トランプ大統領は、朝鮮戦争中に制定された国防生産法を3月20日に発動し、政府が、企業に調達や増産を指示できるようにした。たとえば、ゼネラル・モーターズ(GM)には、人工呼吸器の生産が命令されている。おかげで、人工呼吸器や検体採取用のスワブ(綿棒)、マスクなどが増産中だ。こうしたPPEの大量輸出は原則禁止され、製品は港の倉庫などで、規則が施行される前から差し押さえられている。

 

 

 コロナのパニック買いを見越して買いだめをし、値段を釣り上げた者には逮捕者も出ている。世論もこうした業者や個人に対しては批判的で、店側は大量購入者からの返品を拒否。SNSでは購入者の画像が拡散される。メディアに取材されたある備蓄者には何千もの抗議が殺到し、連絡先が拡散され、大量のピザが届けられた。転売サイトもなくなり、結局、この業者は1万7000本のハンドサニタイザーなどすべての備蓄を寄付するはめになった。

 

 逮捕までいかなくても、転売目的で大量購入した者の在庫は、全米各地で次々と差し押さえられた。だが、この差し押さえ行為が、あちこちでトラブルを呼んでいる。輸出しようとした物だけでなく、輸入されたものも次々と押収されているからだ。

 

 デラウエアの業者は40万個のマスクを押収され、このままでは4億3000万円の損失だと問題になっている。民間業者だけではなく、郡や町、さらには州が注文したPPEもたちどころに押収される。

 

 マサチューセッツ州知事は、記者会見で、州が発注した300万枚のマスクがFEMA(アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁)に押収されたと明かした。州は医療現場のためにPPEをかき集めなくてはならないので、次はNFLチームのニューイングランド・ペイトリオッツが所有するプライベートジェットを手配し、無事に120万枚のマスクを受け取ったという。

 

 差し押さえを恐れたイリノイ州は、発注したPPEがどのように届くかを公表しなかった。190億円ほどかけたPPE購入費のうち、1億円ほどがフェデックスのチャーター料金だったようだ。

 

 押収されたPPEがどこへ行ったのかは、よくわからないことが多い。国の備蓄も余裕がなく、先日トランプ大統領の娘婿クシュナーが「国の備蓄は州のものではない」と発言。州知事たちは国の押収に怯えながら、自分たちで必死になってPPEを調達している状態だ。

 

 これだけ大規模に増産や差し押さえをしても、まだ現場のPPE不足は続いている。GetUsPPEという団体が、全米600あまりの病院に聞いたアンケート(4月上旬調査)によると、

 

・N95マスクの在庫:2週間分以下の病院90%、在庫ゼロの病院22%
・医療用ガウンの在庫:2週間分以下の病院93%、在庫ゼロの病院20%
・フェイスシールドの在庫:2週間分以下の病院92%、在庫ゼロの病院36%

 

 だった。日本でも半数の医療機関がマスクを使い回しているという。医療現場で医師・看護師がゴミ袋を着て奮闘するような状態は、いつまで続くのだろうか。(取材・文/白戸京子)

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