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香港デモで民主派リーダーが見せた危惧「中国に送られてしまう…」
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2020.06.06 15:40 最終更新日:2020.06.06 15:40
「香港独立、唯一出路(香港独立だけが唯一残された道だ)」
6月4日、数千人のシュプレヒコールが、香港のビクトリアパークに響き渡った。
この日、1989年6月4日に発生した天安門事件から31周年を迎え、香港では毎年恒例の天安門事件追悼集会がビクトリアパークで開催されるはずだった。昨年は事件から30周年を迎え、ここ数年で最高となる18万人が参加した。
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しかし香港政府は、3月末よりコロナウイルス感染拡大防止を口実に、5人以上が集まることを禁止する条例(限聚令)を制定。5月8日には9人に緩和されたが、4月下旬以降、海外からの帰国者を除き、ほぼ新規の感染者が出ていないにもかかわらず、6月18日までの延長を決定。5月より本格的に再開されたデモでは、参加者の逮捕の口実に使われてきた。
さらに5月28日、中国政府が全国人民代表大会で香港版「国家安全法」を採択したのに加え、この6月4日に香港立法会で、中国国歌の替え歌などの侮辱行為に最高で罰金5万香港ドル(約70万円)や最高3年の禁固刑が課される「国歌法」が強硬採決され、民主派やデモ参加者の失望と怒りは最高潮に達していた。香港では、若者を中心に、中国の国歌「義勇軍行進曲」を嫌う人が多いのだ。
5月24日と27日にも大規模なデモが計画されたが、香港政府は3000人規模の武装警察を配備し、デモ隊を弾圧。コーズウェイベイ、旺角などで数百人の逮捕者を出していた。
この日も警察はコロナ感染予防を口実に集会を不許可とし、会場には鉄柵が張りめぐらされ、SARSのときにも開催された集会が初めて不許可となった。これに対し、主催者はオンラインを使ったり、香港各地に会場を分散し追悼するよう呼びかけた。
夜の7時ごろになると、ビクトリア公園にも多くの人々が集まりだし、人々は鉄柵を超えて中に入りはじめた。その流れは数百人に膨れ上がり、ついに鉄柵は倒され、ソーシャルディスタンスを取りながらも、公園は集会参加者で埋め尽くされた。
夜の8時になり、集会が開始される。集会禁止令を意識して、マイクやスピーカーは使われない。8時9分になると、人々はキャンドルを掲げ、天安門事件の犠牲者に黙とうを捧げる。黙とうが終わると、参加者たちからは次々とシュプレヒコールが起こる。
「五大要求、缺一不可(デモ参加者の逮捕取り下げなど5つの要求は1つも欠けてはならぬ)」という、いつものスローガンとともに、若者たちからは「香港独立、唯一出路(香港独立だけが唯一残された道だ)」「ONE NATION , ONE HONGKONG(1つの国、1つの香港)」と叫ぶ声が会場のあちこちから沸き起こっていた。
1国2制度のもとで、デモや言論の自由を認められてきた香港だが、「香港独立」を訴えることは法律違反だった。しかし、中国による強引な香港版「国家安全法」の採決に、香港人の怒りはピークに達し、大っぴらに香港独立を訴えるようになったのだ。
だが、先週、あれだけ強硬な取り締まりをおこなった警察の姿が見えないのが気になる。毎年集会に参加している50代男性に聞くと、「この天安門事件追悼集会は、海外のメディアも報道し、国際的な注目度も高い。それに加え、国家安全法が採択されてすぐに暴力的な取り締まりをおこなうと、デモ参加者と国際世論からのさらなる反発が予想される。そのため、暴力的な取り締まりを避けているでしょう」と言う。
集会場では、カップルや学校の友達同士で参加している若者たちの姿が目立った。この先、数十年、香港で暮らす彼らにとって、デモや言論の自由が奪われていく香港に不安を隠せないのだろう。
20代の男性に声をかけると、「国家安全法は早ければ6月中に香港に施行されると言われている。そうすると、昨年55万人が集まった7月1日の香港返還日のデモも取り締まりの対象になる可能性がある。もしそうなったら、今日の集会が本当に本当に最後の大規模な集会だと思って、いても立ってもいられず参加した」と、切実な思いを訴える。会場の各地で、香港デモのテーマソングで、非公式な香港国歌と呼ばれる「香港に栄光あれ」が歌われていた。
1時間あまりで熱気の冷めやらぬ会場を後にし、コーズウェイベイの駅に向かう。するとそこにはひときわ人目を引く美少女がいた。おお、雨傘運動の女神と呼ばれるアグネス・チョウさんだ。ご本人を目の前にすると、マスクをつけていてもその美貌とオーラに圧倒される。
思わず記者がカメラを向けると、一瞬緊張したような表情を記者に向ける。彼女は、デモや集会に参加するたびに、親中派の人々から執拗にカメラで録画をされるなどの嫌がらせを受けているのだ。
改めて非礼を詫び「こんにちは、日本の記者です。写真を撮らせていただけますか」と日本語で話しかけると、ホッとしたような笑顔を見せてくれ、「もちろんいいですよ」と応じてくれた。今回アグネスさんは、所属する政治団体「香港衆志」の活動への寄付を呼びかけていた。彼女たちのような民主派はデモ会場で寄付を呼びかけ、活動資金を集めることが多い。記者が撮影している間にも、何人もが彼女の持つ募金箱に100香港ドル札を入れていき、彼女の知名度の高さを物語っていた。なかには「アグネスさん、頑張って!」という、日本人サラリーマンもいた。
彼女は国家安全法が採択されたとき、日本のメディアの取材に「これから香港がどうなってしまうのか、とても怖いです。国家安全法で、香港にいても逮捕され、中国に送られてしまうかもしれないですから」と、答えていた。
2014年の雨傘運動から注目され続けるアグネスさんだが、昨年の8月30日、違法集会を呼びかけた容疑で香港当局に逮捕され、現在も海外への渡航を制限されている。日本のアニメや音楽を愛する、現役の女子大生でもある彼女が、また大好きな日本に来られるよう願いつつ、記者は会場を後にした。(香港在住ジャーナリスト・角脇久志)