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昇給を望まない労働者も…沖縄から貧困が消えないホントの理由

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2020.07.02 11:00 最終更新日:2020.07.02 11:00

昇給を望まない労働者も…沖縄から貧困が消えないホントの理由

 

 沖縄は、都道府県別の県民所得では11年連続で全国最下位。賃金は全国の最低水準で、貧困率は全国平均の実に2倍。沖縄は日本でも突出した貧困社会である。

 

 貧困とは、一義的には所得が低いことである。そして、所得が低いことのさらに一義的な原因は、経営者が従業員に十分な賃金を支払わないからだ。

 

 

 しかしながら、経営者だけが悪者かといえば、ことはそれほど単純ではない。沖縄の労働者はまるで自分から貧困を選択するかのような行動をとりがちなのだ。

 

 沖縄には「昇進、昇給を望まない労働者」がいる。それが、貧困状態であっても、だ。沖縄の場合、経営者が従業員に報酬を支払わない、という以上に、従業員が報酬を受け取らないという、驚くべき傾向がある。

 

 沖縄で人材登用を進めようとしても、そもそも有能な人材が管理職になりたがらないし、パートも正社員になりたがらない(もちろん、すべての人がそうだということはあり得ないし、実数で測れば昇進を断る人の方が少数かもしれない。しかし、これが本土の組織だったら、そんな人が1人でも存在すればニュースになるだろう)。

 

 以前、事業再生の仕事をしていた私が沖縄でホテルを取得して経営を始めたとき、非正規雇用者の多さに驚き、約100名の非正規雇用者の中から特に有能な十数名を選んで、正規雇用への切り替えを提案したことがあった。

 

 想定外だったのは、少なくない人数の従業員がこれを辞退してきたことだ。昇進・昇給の機会を提示されて、それを断る従業員が存在する、という事実に私は面食らった。

 

 本土経営者たちは、このような現象を見て、「ウチナーンチュ(沖縄人)は向上心がない」と結論づけるのだが、ウチナーンチュの立場で、ある意味「そうならざるを得ない」事情にまでは理解が及ばない。

 

 彼らはもちろん、昇進を喜ばないわけでもないし、お金が欲しくないわけでもない。しかし、リーダーになるメリットよりも、デメリットの方を強く感じているのだ。

 

 その理由の第一は、おそらく、責任ある立場に置かれて目立ってしまったり、同僚に注意・指摘しなければならない役割を果たしたり、(本土)経営者の意向で同僚に接しなければならなくなることが、「クラクションを鳴らす(地雷を踏む)」ことになってしまうからだ。

 

 いつも一緒にお弁当を食べている非正規雇用の同僚の中から一人が正社員に登用されたとする。上下関係が生まれてしまうと、一緒にお昼を楽しむことが難しくなる。

 

 授業で学生たちから集めたコメントにも、同様の特徴が見られる(冗長さを避けるため、私が少しまとめたコメントを掲載する。彼らの言葉からは、沖縄社会で生きる息苦しさがリアルに伝わってくる)。

 

◯常に周りに合わせて行動しなければならない。思えば「人より何か目立っている人、違うことをする人が仲間はずれになるんだ」と幼いころから感じていた。

 

◯少し普通の人と違う人がクラスにいると、「あの子と合わない」「めんどくさい」などと陰口を言う。その子がくれば何事もなかったように笑顔で普通に話をする。

 

◯小中学校の時、特に、みださー(場を乱す人)と言われることを恐れて何もできないことが多かった。人より何か目立っている人、違うことをする人が仲間外れになりやすい。

 

◯友人数名と食事にいったとき、自分一人だけみんなと違うものを食べようとしたときに、みださーと言われた。沖縄でみださーと呼ばれる人は、自己中だというレッテルを貼られる。

 

 人間関係が緊密な「シマ社会」沖縄において、周囲への気遣いは何よりも重要である。沖縄社会で一旦人間関係がこじれると、周囲の人間関係を巻き込んで、一生の問題になり得る。人間関係をこじらせてしまえば、この狭いシマで自分の居場所がなくなってしまう。

 

 人間関係に波風を立てないためには、現状を維持することが安全な選択である。つまり、昇進や報酬を断ることには合理性が存在するのだ。

 

 

 以上、樋口耕太郎氏の新刊『沖縄から貧困がなくならない本当の理由』(光文社新書)をもとに再構成しました。「沖縄の人は優しい」と皆が口をそろえるなか、なぜ自殺率やいじめ、教員の鬱の問題が他の地域を圧倒しているのか。誰もなしえなかったアプローチで、沖縄社会の真実に迫ります。

 

●『沖縄から貧困がなくならない本当の理由』詳細はこちら

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