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賭け麻雀で辞任「黒川弘務」元東京高検検事長は優秀すぎるコマ

社会・政治 投稿日:2020.08.02 16:00FLASH編集部

賭け麻雀で辞任「黒川弘務」元東京高検検事長は優秀すぎるコマ

 

 ビデオジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が司会を務めるオンライン討論番組 「マル激トーク・オン・ディマンド」。この2人が、賭け麻雀で辞任した黒川弘務東京高検検事長について忌憚なく語った。

 

宮台 黒川弘務が東京高検検事長まで出世した理由を考えましょう。検察の暴走を止める法律や仕組みを黒川が止めてきたという功績が、検察内で評価されたことが大きい。

 

 

 巷には誤解がありますが、政権に取り入るだけで出世したわけではありません。検察の暴走を止められる枠組みを止める功績が評価されて、検察の内部でも大きな影響力を持つ存在だったのです。

 

 加えて、政権に関わる事案をことごとくつぶしてきたので、「つぶしの黒川」として政権側にも重用されたということです。そのことを考えると、まず、みなさんには、検察は正義だという考え方はやめてもらわなければなりません。

 

 そこで、官僚としての黒川弘務の経歴を見てみましょう。

 

■黒川氏の関与が取り沙汰される事件

 

(法務省大臣官房長として)
◯2015年1月 東電の旧経営陣を不起訴処分
◯2015年4月 小渕優子衆院議員を不起訴処分
◯2015年5月 東芝の巨額不正会計の捜査に着手せず
◯2016年5月 甘利明・前経済再生担当相を不起訴処分
◯2016年7月 伊藤詩織さん事件で逮捕状執行せず

 

(法務事務次官として)
◯2018年5月 佐川宣寿・前国税庁長官らを不起訴処分

 

(東京高検検事長として)
◯2019年10月 菅原一秀経済産業相、違法寄付行為で辞任も、その後、進展なし
◯2019年11月 「桜を見る会」問題が表面化も捜査なし
◯2019年12月 IR汚職で秋元司衆院議員を逮捕もその後、進展なし
◯2020年1月 公職選挙法違反の疑いで広島地検による河井克行・案里夫妻の捜査を止められず、6月に逮捕

 

神保 黒川さんは、安倍政権の守護神のようによく言われますが、その前に検察の守護神でもありました。大阪地検特捜部の不祥事によって、特捜部は解体の危機に瀕していた。

 

 少なくとも取調べの全面可視化は避けられない情勢と考えられていたところを、可視化の範囲は最小限にとどめる一方で、それまで限られた事件にしか使えなかった盗聴の権限をほぼ全事件に広め、新たに司法取引も認めさせることに成功しています。

 

 しかも、司法取引に際しては、被告人の利益になるような自己負罪型の司法取引は導入されず、他人を陥れることを可能にする「捜査協力型」のみが導入されました。いずれも検察の権限を強化・拡大するもので、絶体絶命の危機的な状況にあった検察にとっては、まさかの焼け太りでした。

 

宮台 早めに自白しておけば自分の罪が軽くなるという「自己負罪型」ではなく、検察の言う通り調書にサインすればお前の罪は問わないという「捜査協力型」、つまり密告をうながす仕組みということですね。

 

神保 司法取引先進国のアメリカは、司法取引のほとんどが自己負罪型です。自分の罪を認めれば裁判も略式裁判となり、罪を軽くしてもらえる。

 

 そうすることで司法コストを下げることを主たる目的としています。背景には、犯罪が多いアメリカで、すべての刑事事件で裁判をしていたら、裁判所の数も裁判官の数も足りないという事情があります。

 

宮台 取引しなければ裁判が長期になり、刑罰も重くなるけれど、取引に応じれば罰金ですむ、あるいは刑が大幅に軽くなる、という仕組みですね。

 

神保 日本で導入されている捜査協力型の司法取引というのは、捜査に協力し他人を起訴したり有罪にすることの手助けをすることによって、自分の刑だけは軽くしてもらえたり、不起訴にしてもらえたりするというものです。

 

 嘘の証言で他人を陥れることが可能になるほか、そもそもチクリが奨励される社会が本当に望ましい社会と言えるのかも考えてみる必要があると思います。

 

宮台 あえて素朴な言い方をさせてもらえば、反倫理的なことを許容・推奨する枠組みなので許すことはできません。しかも、日本の場合は自白偏重主義なので、証拠がなくても、密告があるだけで、有罪になりえます。これでは冤罪のインキュベーター(製造装置)です。

 

神保 黒川さんの功績はそれだけはありません。20年前に中途半端な形で見切り発車する形になっていた盗聴法も、フルスペックなものにアップグレードすることに成功しています。

 

 今にして思えば、初めて盗聴法が可決した1999年の第145回国会で、乱用の防止措置が不十分であるという盗聴法案の問題点を声高に指摘して、対象犯罪を厳しく絞り込ませた野党勢力の努力はそんなに無駄ではなかったことになります。結果的にあの法律は警察や検察にとって、使い勝手が悪いものだったようです。

 

 盗聴法の改正の裏でも、法務次官だった黒川さんが暗躍したと言われています。黒川さんという人は、検察官としてよりも法務官僚として能力を発揮し、政治にうまく食い込んで検察の権益を広げた有能な官僚だったというのが大方の評価のようです。

 

 しかし、そうであるがゆえに、反対に政治にも使われてしまったのだと思います。

 

宮台 所属組織でのポジション取りのために権力に弱い。これは官僚では通常のことです。加えて、希代の有能ぶり。稀にそういう官僚がいます。しかし、「権力に弱く、かつ希代の有能ぶり」が重なると、検察トップにとっても、政治家にとっても、極めて使いやすいコマになります。

 

 今後もこういうタイプの人間が官僚として出てきたら、必ず同じことが生じるでしょう。

 

 

 以上、『暴走する検察~ 歪んだ正義と日本の劣化』(光文社)をもとに再構成しました。「黒川問題」であぶり出された官邸・メディアとの癒着、ゴーン逃亡から見る「人質司法」、「作られる」自白、進まぬ取調べの可視化……。ジャーナリストの神保哲生氏と社会学者の宮台真司氏が、検察について徹底討論。

 

●『暴走する検察』詳細はこちら

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