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なぜ人はやってもいない犯罪を自白してしまうのか

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2020.08.11 16:00 最終更新日:2020.08.11 16:00

なぜ人はやってもいない犯罪を自白してしまうのか

 

 ビデオジャーナリストの神保哲生が、なぜ人はやってもいない犯罪を自白してしまうのかを考えます。

 

 

 最近の冤罪事件を見ると、ほとんどの事件で被疑者は取調べ段階で一度は自白しています。現実問題として、起訴された以上、無罪を勝ち取れる確率は限りなくゼロに近い。もちろん実際にやっていてもやっていなくても、です。

 

 

 1961年ぐらいから集計されているデータを見ると、当初から有罪率は99%はありましたが、それが近年では99.8~99.9%にまで上がっている。

 

 99%だと、100件に1件の無罪率ですが、99.9%だと1000件に1件です。もともとの99%もただ事ではありませんが、さらにそのときから有罪率は10倍ぐらい上がっていることになります。

 

 つまり、無罪を勝ち取れる確率は100件に1件から、1000件に1件まで下がっている。

 

 では、被疑者の方はなぜやってもいない犯罪について虚偽の自白をするのでしょうか。理由は8つほどあります。

 

■虚偽の自白をしてしまう理由

 

1長期勾留による精神的な圧迫
2現実感のなさ
3インボー方式(アメとムチ)
4記憶の塗り替え
5脅迫・甘言(認めなければ身内が逮捕される、罪が重くなる)
6リークによる社会的抹殺
7取調べの非可視化・弁護士が立ち会えない
8自白調書は警察や検察の作文に署名するだけ

 

 1の長期勾留によって精神的に追い詰められて虚偽の自白をしてしまうというパターンは、冤罪事件で必ずといってもいいくらい毎回見られる要素ですが、2の現実感のなさというのは、僕にとっては意外なものでした。

 

 自分は実際には犯行を行っていないのだから、そんな自分が有罪になるはずがない。そのような事態は想像すらできない。それがやっていない被疑者の心理なんだそうです。

 一方、実際に犯行を行った真犯人が被疑者の場合、本人はバレたら有罪になって大変なことになるとビクビクしている、つまり真犯人にとっては、刑罰とか有罪判決というものが、常に現実的な脅威なわけですね。

 

 実際は犯行を行っていない人が、とりあえず捜査段階でいったんは犯行を認めてしまっても、裁判の場でしっかりと否定すれば、さすがに裁判官はわかってくれるはずだという、裁判官や日本の裁判に対する根拠のない信用とか信頼があるという話はよく聞きます。

 

 しかし、取調べ段階で犯行を認める自白調書が作られてしまったら最後、いくら公判で自白を覆しても、法廷での証言よりも調書が優先される日本の裁判では、取り調べ段階での自白が最後まで尾を引き、ほぼ確実に有罪になってしまう。

 

 3番目の「インボー方式」というのは、どういうものなのか。弁護士の今村核さんがこう話します。

 

「アメリカのフレッド・E・インボーという捜査心理学者が編み出した方式で、自白をさせる方法として有効とされています。簡単に言えば、非情緒的な被疑者と情緒的な被疑者に分けるわけです。

 

 非情緒的な被疑者については嘘も含めてこれだけ証拠があってあなたの有罪は絶対に動かない、ということを納得させる。例えば、目撃者がいるとか、防犯カメラに映っているとか、嘘を含めて説得する。

 

 情緒的な被疑者に対しては、いや、気持ちもよくわかるよ、とか、あの女房では仕方がないよと同調して見せたり、あるいはより悪質でない動機を示唆したりして、情緒的にからめとっていく手法を【インボー方式】と呼んでいます」

 

 記憶の塗り替えは、「本庄保険金殺人事件」が有名です。事件の共犯者とされた被疑者が、長期の勾留と長時間の取調べによって追い詰められているうちに、本当に何が事実だったかがわからなくなってきて、結果的に虚偽の自白をしてしまう。

 

 捜査官も意図的に被疑者の記憶を上書きするような取調べを行う場合がある。もちろん取調べは可視化されていないので、その取調べ方法が後でばれる心配はない。

 

 他にも、乱暴な言葉使いや高圧的な取調べだけではなく、お前が犯行を認めなければ奥さんを逮捕するぞとか、身内に迷惑がかかるぞとか、いつまでも保釈されないぞとかという脅しも、よく聞きます。

 

 その一方で、犯行を認めればすぐに釈放してやるとか、なるべく罪を軽くしてやるというようなこともよく言われるようですが、実際にはその約束が果たされないことのほうが多いといいます。

 

 しかも、社会から注目された事件の場合、その間、検察のリークによって事件は検察のシナリオ通りに報道され、結果的に被疑者は勾留されている間に社会的に抹殺されてしまいます。

 

 全く反論ができない状態でさんざんメディアから犯人扱いされれば、頑張って否認を貫いて仮に何年後かに無罪を勝ち取っても、もはや元の社会的地位や信用を取り戻すことは不可能です。その無力感から、最後は虚偽の自白をしてしまうパターンも少なからずあるようです。

 

 取調べ室の中で何が行われているかは、取調べが録音・録画されていなければ、後から検証することができません。さらに日本は先進国でも唯一と言ってもいい、被疑者の取調べに弁護士の立ち会いが認められていない国です。これはほとんどの外国人が一番驚くことです。

 

「虚偽の自白」と一言でいいますが、実際には被疑者がやってもいない犯行を自主的にペラペラとしゃべるわけではありません。自白調書というのは、被疑者の実際の供述を文字にしたものではなく、検察が作った作文に被疑者が署名したものです。

 

 要するにテンプレートなんですね。被疑者にしてみれば、検察の作った作文に署名をしているだけなので、自分が犯行を自白しているという実感が持てない場合もあるようです。それが後で大変なことになるわけですが。

 

 

 以上、『暴走する検察~ 歪んだ正義と日本の劣化』(光文社)をもとに再構成しました。「黒川問題」であぶり出された官邸・メディアとの癒着、ゴーン逃亡から見る「人質司法」、「作られる」自白、進まぬ取調べの可視化……。ジャーナリストの神保哲生氏と社会学者の宮台真司氏が、検察について徹底討論。

 

●『暴走する検察』詳細はこちら

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