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岩田健太郎・西浦博「FAXでコロナ報告する日本ってどうなの?」

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2020.10.31 16:00 最終更新日:2020.10.31 16:00

岩田健太郎・西浦博「FAXでコロナ報告する日本ってどうなの?」

 

 新型コロナが蔓延した「ダイヤモンド・プリンセス号」に入船し、その後、何者かの圧力で下船させられた岩田健太郎医師が、「8割おじさん」こと西浦博医師と対談した。以下、その一部を紹介しよう。

 

 

岩田健太郎 感染者の報告システムが、FAXからオンラインになったという話がありますよね。でも東京の人の話を聞くと、結局、そのハーシス(HER-SYS)という新しいシステムは非常に使いにくいので、やっぱり今もFAXらしいですね。

 

 

西浦博 はい。

 

岩田 で、これはもう、じつは歴史があって、昔の、エイズのエーネット(A-net)という情報システムが、まったく同じ構造で、使いにくいので誰も使わなかったということがあったんですよ。

 

 つまり同じことを延々と繰り返しているわけです。ですからまあ、ぼくは割と悲観的で。まあ前進もするかもしれないけれど、結局のところ、抜本的に変わるというよりは、ちょいちょいっとマイナーチェンジをして、エートス的にはまた同じことの繰り返しかなと思っています。

 

西浦 ぼくも今回、システムの状況については実感させられたのですが、今まで、感染症の届け出のシステムというのは、こうした大きな流行があるたびごとに、流行途中でシステムを切り替えようとすることが何度もあったというんですね。

 

 で、立ち上げてはダメになって、というのを新型インフルエンザのときも含めて数回やっているけれども、どれも残らなかった。それで今回は、そのハーシスというシステムを作るときに、必ず走らせるんだぞという意気込みを持ってやっていらっしゃったと。

 

 で、今のところ問題になっているのは、入力項目がとても長いと。システムを作るときに、地域の保健所や臨床医の意見を必ずしもたくさん聞いたわけではないので、濃厚接触のデータもそれで取ろうとしていたりしている。設計をするプロセスに問題があるということですね。

 

岩田 でもそれ、いつものことなんですよ(笑)。熊本地震のときもそうでした。入力項目が多すぎて、保健師さんが夜中までかかってデータ入力をしていた。でもそんなに入力する必要はないんです。入力にすごく時間がかかると、結局報告も遅れて、報告が遅れると対策も遅れるので、結局、何をやっているか分からなくなるんですよね。

 

 だったらもう、入力項目をもっと圧縮すればいい。たとえばぼくはその熊本のときに、インフルエンザのアウトブレイクなどの介入ができるものに限って報告をすれば、それ以外は一切報告しなくていいと言ったんですよ。

 

 たとえば、避難所に妊婦が何人いるかというのを毎日入力しなければいけない。妊婦なんてそんな、次の日に10倍になったりするものではないのだから、毎日入力するほどのことではないですよね。どうして入力項目をやたらに増やして巨大なデータベースを作るのか。もう完全にあれは、研究者目線なんですよね。

 

西浦 いや、あの、研究者の意見もそう取っていないようです。だから、ちょっと残念なのは、そうやって行政的にたくさん打ち込むような行数がある一方で、どうもそれが効果的に何かの目的のために使用するということにつながってはいなさそうなのですよね。

 

 これは厳しいなというのは、ハーシスが走り始めてから感じていて、結局、都の人などは、ハーシスではなくて、今のところまだネシッド(NESID)という従来のシステムで報告しているとも聞きます。二歩進んで、三歩下がる、みたいなことをやっているなとは感じるのですが、でも有識者会議などでテーマにはあげてくれるようにはなりましたけどね。

 

岩田 入力してくれる看護師に聞くと、まあ1人分だったらできると言います。でも10人になったらとてもできないと(笑)。本来だったら、1日に50人でもさーっと入力できるぐらいのものにしないと、実用に耐えないと思うんです。そのことはエーネットで学んだはずなのですが、まあ担当が代わっているので、学んでいないのかな。

 

 岡部信彦先生などもおっしゃっていますけど、新型インフルエンザのときの報告書や総括会議の議事録も、活かされていないんですよね。やったふりになってしまっていて、当時の総括が活きていないんです。

 

 だから、この業界でずっとやっていると、また同じことの繰り返しかなあって思わざるをえなくて、だんだんペシミスティックになっていくわけです。しかも、日本は、なんだかんだで、割とするっとすり抜けるんですよ。

 

西浦 ああ、そうですね。

 

岩田 韓国がMERSで遭ったように、あるいは中国がSARSで遭ったように、かなり痛い目に遭っていれば、相当直すと思うんですけど、なんだかんだでその辺はするする抜けてきたというのがあって。今回のコロナも割とするするすり抜けてきているんですけど。

 

西浦 はい。

 

岩田 で、結局、現状維持でいいやとか、あるいは逆に、これまでの対策は全然だめなのではないかという話になったりもしている。今なんかはもっと酷い話で、要は専門家の意見なんて聞いてもしょうがないみたいな流れすら出ていますよね。

 

西浦 はい、はい。

 

岩田 で、全然感染症のプロでない人たちが、これが正しい、あれが正しいという話をされて。これは日本に限らずアメリカなどでも同じことが起きていますけど、まあ、すごく困っています。

 

 

 以上、岩田健太郎氏の新刊『丁寧に考える新型コロナ』(光文社新書)をもとに再構成しました。神戸大学医学部感染症内科教授である著者が、流行の波について、感染対策について、検査について、マスクについて……丁寧に考察します。

 

●『丁寧に考える新型コロナ』詳細はこちら

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