社会・政治
懲役は計87年…メンバー30人が“元ヤクザ”強豪ソフトボールチームの結成秘話
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2021.01.07 06:00 最終更新日:2021.01.07 06:00
「今のはアウトやろ! どないなっとんねん! 審議や」
ベンチから、監督のやたらドスのきいた声が響くーー。
2020年12月13日、東京・葛飾区の柴又ソフトボール場で、草ソフトボールリーグの親善試合がおこなわれた。地元・中之台小学校のPTAが結成したチームと対戦するのは、「竜友会」。葛飾区ソフトボール連盟に加盟して6年、優勝経験もある強豪チームだ。
【関連記事:千原ジュニア「酔ったヤクザ」に連れ去られるも舎弟が土下座謝罪】
じつはこの竜友会、メンバーの多くが、元ヤクザだ。冒頭の写真をご覧いただこう。後列左端、マスクを顎にかけている八番ライト・石川さん(52・元松葉会系)、後列左から2人め、三番サード・おさむさん(48・元山口組系)、後列左から3人め、五番ショート・みつるさん(47・元住吉会系)、後列左から4人め、ネックレスをしている四番ファースト・石橋さん(51・元山口組系)、中列左端、八番ショート・阿部さん(56・元松葉会系)。
中列左から2人め、二番ピッチャー兼監督・竜崎祐優識さん(70・元山口組系傘下組織特別相談役)、中列左から3人め、サングラスをしているコーチ・福尾さん(76・元山口組系)、前列右端、九番レフト・努さん(52・元住吉会系)。交代で出場するため、打順やポジションは重複している。そのほかのメンバーは、野球好きの俳優や学生、個人事業主などで、ヤクザ組織とは無縁だ。監督の竜崎さんが、成り立ちを語る。
「もともと、葛飾区を選挙区とする平沢勝栄衆院議員に、『組織を脱退した人の受け皿を作ろう。元組員を集めてソフトボールのチームを作らないか』と、すすめられたのがきっかけです。私自身、甲子園球児だったこともあり、2012年に『竜友会』を結成しました」
現在、約50人のメンバーのうち、元組員は30人。メンバーになるには、組織からの脱退を証明する書類を提出してもらうことが必須だ。
「脱退した者の話を人づてに聞いたり、現役の親分さんから『服役中の組員が脱退するから、出所後の面倒を見てくれないか』と相談されるケースもあります。
最初は、ソフトボールのルールすら知らんやつが何人もいました。打っていきなり、サードに走り出すやつとかね。結成して最初の練習試合は、4対78で負けました。でも鍛えるうちに、みんな楽しさを覚えるんです。
ソフトボールだけでなく、メンバーの間で仕事の世話もしたりする。さらに僕を含めたメンバーの数人は、2021年に公開予定の『北風アウトサイダー』という映画にも出演します。出所直後の元ヤクザが居場所を見つけ、仕事も見つける。いろんな意味で、更生の機会になっていると思いますよ」
しかし、試合が白熱すると、“昔取った杵柄” が顔を出す場面があるという。
「審判の判定に『ストライクちゃうやろ』と詰め寄ったら判定が変わったとか、デッドボールを受けて『なんや!』って怒ったら、相手チームが走って逃げた、とか(笑)。結成当初は対戦相手へのヤジが攻撃的だったので、やめるようにしました」
この日集結したメンバー18人のうち、元ヤクザは8人。さまざまな過去を抱えている。元住吉会系のみつるさんは、チームのムードメーカーだ。
「懲役7回で合計23年(刑務所に)入っていました。組織では執行部にまで入ったけど、尊敬する親分が亡くなったので足を洗いました。
出所後、寝る間も惜しんで必死に働き、堅気の仕事を覚えました。親分に恥ずかしくない生き方をしていかないとね」
元松葉会系の阿部さんは、かつて竜崎監督の命を狙っていたこともあったという。
「組織として対立していたので、竜崎さんのタマを取ってこいと言われていました。組織をやめたあと、ある人に『竜崎さんを知っているか』と聞かれ、『当然知ってますよ』と言ったら、チームに誘われたんです。参加して6年めですが、楽しいですよ」
チーム最年長で元山口組系の福尾さんは、大学で教員免許を取得したあと、ヤクザの世界に。合計で25年服役していたという。
「受刑者や元受刑者を支援するために、人材派遣の会社を立ち上げて、出所直後の人や、仮釈放中の人を受け入れています。無期懲役の受刑者への面会にも行っていますよ」
現役時代、左手の小指を詰めたという元松葉会系の石川さんは、入団して2年になる。
「野球経験はあるんだけど、ボールをキャッチするとき、小指がないせいで、どうしても力が入らないね」
この日の試合は、乱打戦となった。試合序盤、竜友会は先攻の中之台小学校PTAチーム相手に失点を重ね、2回表で7対0となった。しかしここで竜崎監督が「気合入れろや! 三振したら代えるぞ」と一喝。みつるさんのホームランを皮切りに打線が爆発し、結果19対21と、竜友会が打ち勝った。
今回、主審を務めた葛飾区ソフトボール連盟の新飯田千代春理事長は、「彼らはリーグに馴染んでいますよ」と竜友会を評価している。
「リーグのほかのチームには、彼らをむやみに怖がったり、差別しないことを徹底させました。竜友会のメンバーは、礼儀はきちっとしているし、試合後のゴミ拾いをちゃんとやってくれますよ」
元住吉会系の努さんは「この場所では、本当の自分を出せる」と話す。
「ヤクザからは、10年前に足を洗いました。竜崎さんに千本ノックでしごかれたときは、ヤクザをやってたほうがよかったぐらい、つらかった(笑)。でもこのチームは、居心地がいいんですよ。こんな気持ちになれたのは初めてなんです」
竜崎さんは、今後も、どんな過去があろうと誰でも受け入れるつもりだという。
「気合の入った元ヤクザ、絶賛募集中やで!」
(週刊FLASH 2021年1月19日・26日合併号)