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『ドクターX』に登場する「フリーランス医師」ホントにいる?

社会・政治 投稿日:2016.10.26 12:00FLASH編集部

『ドクターX』に登場する「フリーランス医師」ホントにいる?

内田有紀演じるフリーランス麻酔科医

 

 先日、ある大学病院に勤める麻酔科医からこんな相談を受けた。

 

「ドラマの影響か、妻が大学病院を辞めてフリーランスになることを勧めてくるんです。『フリー転身で年収三倍』『休みが増えた』みたいな記事を集めていたりします。

 

 たしかに今の病院は薄給ですが、僕はマジメなだけが取り柄の平凡な医師で、『私、失敗しないので』なんて口が裂けても言えません。なんとか、妻を静めたいんですけどね……」
 

 

 2012年に始まったドラマ『ドクターX』は、フリーランス医師という存在を広く世間に知らしめた。

 

 数々の難手術を成功させ、ミニスカートとハイヒールで大病院を渡り歩く主人公・大門未知子(米倉涼子)のようなフリーランスの外科医は、現実にはほとんど存在しないが、城之内博美(内田有紀)のようなフリーランス麻酔科医は少なくない。私もその一人である。

 

 麻酔科医とは、手術のために麻酔をかけるのがおもな仕事であり、内科や産婦人科のようなメジャーな科ではない。外科医の下請け呼ばわりされることも多いが、患者の主治医にはならない後方支援的な業務なので、個々の手術ごとに仕事が完結する。

 

 よって、通訳や運転手のように一日単位での外部委託が可能であり、特定の勤務先を持たないフリーランスが容易なのである。

 

 外科の本質が病変をメスで「攻める」ことならば、麻酔科の本質は手術侵襲(※)から患者を「守る」ことである。ゆえに優秀な麻酔科医とは、確実で安心感のある仕事ぶりの地味な人材であることが多い。

 

 フリーランス市場での需要は“シャネル”タイプよりも圧倒的に「地味だが使い勝手がよく、つい愛用してしまう」“ユニクロ”タイプなのである。

 

 ゆえに、相談してきた「平凡でマジメ」な医師は、フリーランス転身もアリだと私は考える。

 

 ただ、フリーランス転身とは起業である。書類作成・会計・税務等の雑事も多く、これらを手伝ってくれる家族の存在は、事業の成功率を確実に上げる。

 

 というわけで、相談者には「奥さんに『簿記三級の合格』『会計ソフトを使って家計簿を完璧につける』ことを条件として出してみれば」とアドバイスした。

 

 クリアできるならば、妻の意気込みは本気と判断してよい。

 

 だが不幸にして、自分はまったく努力する気がなく、夫がフリーランスになれば「経費で外車や高級寿司食べ放題」と思い込んでいる妻の場合、その提案には乗らないほうが無難といえよう。

 

※手術侵襲:身体を傷つける行為が侵襲。メスを用いる手術も侵襲である。侵襲によって生体はさまざまな反応を起こすが、麻酔で過剰反応をコントロールすることができる

 

●筒井冨美 Fumi Tsutsui
 1966年生まれ フリーランス麻酔科医 国立医大卒業後、米国留学、医大講師を経て2007年からフリーに。医療ドラマの制作にも関わり、『ドクターX』取材協力、『医師たちの恋愛事情』(フジテレビ系)医療アドバイザーを務める

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