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サツマイモの生産全国一の茨城県に登場「干し芋自動販売機」県外からお客が続々!
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2021.05.08 17:10 最終更新日:2021.05.08 17:17
たかが干し芋、などと侮ってはいけない。干し芋といえども、今やどんどん進化し、ついには自動販売機で売られる時代にまでなっているからだ。
茨城県の海岸とほぼ並行して走る国道245号線を、大洗方面から日立市方面に北上すると、右方向に紫色のネモフィラの群生が幻想的な風景を醸し出していることで知られる「国営ひたち海浜公園」がある。このあたりは、茨城県ひたちなか市馬渡地区だが、ここに差しかかったら車の速度を落として、右側の歩道を注意深く見てほしい。
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あたりはサツモイモ畑だらけで、なんの変哲もない田園風景。それだけに、かえってミスマッチで目立っているのが、黒と赤のチェック柄でデザインされた高さ1.8mほどの、いっぷう変わった自動販売機だ。ジュースやお茶の自販機ならどこにでもあり珍しくないのだが、この自販機はタダモノではない。じつは、干し芋の自販機なのだ。
自販機を見つけたら、早速650円を投入してみよう。干し芋のメニューは、ひと口サイズで透明なカップ入りの「丸干し」(140g)、半生の「平干し」(170g)などがある。お好みのボタンを押せば、干し芋が取り出し口に出てきて食べられるというわけだ。
干し芋の自販機を設置するのは、「HIB(ホシイモベース)TAKASHIYA」(黒沢太加志代表・ひたちなか市馬渡)だ。
「自販機を設置したのは、2021年1月中旬です。『同じ干し芋を扱うなら、グレードアップしたオリジナリティーを目指したい』という思いで始めたんです。狙い通りでした。県内はもとより、埼玉県やなんと岡山県などからも、わざわざ買いに来てくれるお客さんもいます」(黒沢さん)
自販機は同社所有のサツマイモ畑の一画にあり、国道に面していることから、ドライブついでに手軽に買える利点がある。焼き芋にしろ、干し芋にしろ、だいたいは店舗販売が主流。それだけに、干し芋の自販機登場は画期的であり、業界に新風を吹き込むもの。黒沢さんは、まさに業界の “革命児” なのだ。
とはいえ、紆余曲折もあったという。最初に持ち掛けた自販機メーカーには、飲み物以外は扱わないと断わられた。自販機のオリジナルデザインについても難色を示された。だが、捨てる神もいれば拾う神もいるものだ。黒沢さんのアイデアを全面的に理解してくれる自販機メーカーに出会い、話はトントン拍子に進んだ。
もっとも、こうした新たな取り組みには、「既存の価値観に捉われない異業種からの新規参入」という強みもあった。
「干し芋を始めたのは5年前。それまでは、県内の米国製大型二輪車販売メーカーで整備士をやっていたんです。そんなとき、農業をやっていた祖父がやめることになった。父はサラリーマンをやっており、『後は継がない』と。
祖父は仕方なく農機具を処分することになったので、『なら俺がやる』って、勢いだけで後を継ぎました(笑)。私は、農業も干し芋も経験はゼロ。地元の業者のもとでノウハウを培った、新規参入者なんです」
茨城県は、食用サツマイモの生産が全国一。とくに干し芋の生産は、ひたちなか市が95%を占める超激戦地区。既存の業者も600軒を超えるなど、ここに新参者が食い込むためには、ありきたりの戦法では勝ち目がない。そこで着目したのが、自販機で干し芋を販売する方法だった。
自販機のデザインも、オートバイメーカーで培ったポップなアメリカンスタイルにした。さらに黒沢さんのユニークなデザインは自販機だけではなく、ロゴマークにも。ハート型のなかに、「HIB」の横文字が入っている。ハート型は同社が丹精を込めて栽培し、干し芋の原料である「紅はるか」の葉のかたちをデザイン化したものだ。
自販機で干し芋。干し芋にロゴマークーー。こうしたアイデアは、これまで干し芋業界にあったのか?
「じつは私が始めたことで、自販機設置の動きやロゴマークを入れる業者も出てきているんですよ。まあ、それだけ私のやり方が理解され、浸透してる証拠かなって思っています」(黒沢さん)
黒沢さんの言葉には、一歩先を行くものの余裕が見えるが、干し芋も焼き芋と同じように、トロっとした甘味のスイーツっぽい食感が人気だという。しかも、焼き芋ブームの相乗効果で、干し芋にも熱視線が注がれ、食品メーカー、菓子メーカーなどの新規参入が相次ぎ、サツマイモブームを押し上げているというーー。コロナ禍でも干し芋業者の表情は、いたって “ホクホク” なのだ。