5月11日、午後11時30分過ぎのことだった。東京・渋谷区のJR恵比寿駅東口付近の交差点で、1人の男性が素っ裸で大声を上げていた。男性は信号待ちで止まっていたタクシーのボンネットに飛び乗ったあと、交差点を渡っていた女性に「イーッ、殺すぞ」といきなり抱きついた。
「女性にタックルを掛けるように飛びついて、2人して倒れ込んだ。女性が『キャー、やめてー』と叫んだので、隣にいたサラリーマンと2人で男と女性を引き離そうとしたんです。すると今度は、僕の足にしがみついてきた。それがすごい力なんです。目ん玉が飛び出すような、あの男の顔は今でも思い出しますよ」(その場に遭遇したAさん)
男性は、駆けつけた警察官6人に取り押さえられた。すでに白目を剥き、意識が朦朧としているように見えたという。
その後、男性は搬送先の病院で5日後の16日に死亡した。神奈川県在住の30代洋服店経営者で、死因は低酸素脳症による急性肺炎。脱法ハーブを使用して幻覚作用が起こった後に死亡したとみられており、原因が特定されれば、脱法ハーブによる都内初の死者となる。
実は今年に入って、脱法ハーブが原因とみられる死者はこれで3人目。2月には名古屋で、4月には横浜で男性が死亡している。脱法ハーブは、乾燥させた植物片に薬物を含ませたものだが(1袋4000円~5000円)、違法薬物とは微妙に成分を変えることで法規制を逃れている。
「脱法ハーブは天然のハーブと違って薬物を混ぜ込んであり、効果は大麻と似ている。だが、大麻より強い依存性がある。薬物の成分を規制しても、イタチごっこでまた法を逃れる薬物が出てくるので、包括的に抑えこむ法改正が必要だ」(国立精神・神経医療研究センター依存性薬物研究室の舩田正彦室長)
渋谷区内で脱法ハーブを売る店主の1人は「こちらはあくまでお香として販売しています。そもそも国の基準をパスしているから商品になっている。未成年だとわかって酒やタバコを売っている店のほうがよっぽど悪質です」と、自らの正当性を主張する。
この店内には「けっして吸引しないでください」との注意書きが。それはあからさまに、吸引の行為の存在を教えているようなものだろう。
(週刊FLASH 2012年6月19日号)