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ワクチン運搬に「医薬品専門業者」が怒り「行政はなぜ素人に運ばせるのか」

社会・政治 投稿日:2021.06.08 18:50FLASH編集部

ワクチン運搬に「医薬品専門業者」が怒り「行政はなぜ素人に運ばせるのか」

写真:フォトライブラリー

 

「本来なら、私どものような会社はいま、もっとも忙しくしていないといけないはずなんです。でも、まったくお声が掛からない。はたしてこのような状態で、安全にワクチンを運ぶことができるのでしょうか。心配になりますよ」

 

 そう嘆くのは、医薬品の物流を専門に扱う企業の担当者だ。

 

 

 英国や米国と比べ、遅々として進まない日本での新型コロナウイルスワクチンの接種。そもそもワクチンを接種するためには、海外で製造されたワクチンを大量に接種会場へ運ぶ必要がある。

 

 しかも、「新型コロナワクチンはマイナス75℃で保管し、最低でも2℃~8℃という低温で運搬することになっています。ここまで低温にする必要があるワクチンは異例です」(国立感染症センター)というから、なおさら運送に気を遣う必要がある。だが、現時点で、前出の専門業者は、ワクチンの運送にまったく関わっていないのだ。

 

「ファイザー社製の新型コロナワクチンに関しては、ファイザーの委託を受けたヤマトホールディングス、セイノーホールディングス、DHLの3社が、『基本施設』と呼ばれるワクチンを大量に保管できる大規模病院などに運んでいます。

 

 そしてこの『基本施設』から、接種会場や小規模病院などの『連携施設』に運搬するのは、各自治体の仕事です」(全国紙記者)

 

 自治体は独自に物流会社などと契約しているが、その物流会社はさらに下請けの運送会社に委託することも多い。

 

「人手が足らず、自治体の職員が直接、運んでいる場合もあれば、タクシー会社と契約して運搬してもらうケースもあります。いずれにせよ、医薬品の運送について、“素人” がワクチンを運んでいるケースはかなり多いです」(同前)

 

 前出の物流企業担当者は、本来、医薬品を運ぶのには、高度なノウハウが必要だという。

 

「私たちは、医薬品運搬用の冷凍車やチルド車、専用の保冷バッグを持っていて、マイナス25℃で運搬することも可能です。しかし設備があっても、たとえば冷凍室を開けて外気に触れた瞬間、冷凍室内の温度は一気に上がってしまいます。

 

 そこで大切なのが、温度管理のノウハウです。私たちは何回も自社で実験をしています。何分以上、外に出したら温度がどうなるのか、保冷バッグはどんなものがよいのか、などを徹底的に検証し、ガイドラインを作成しているんです。

 

 そのガイドラインに則った教育システムを作り、試験に合格した社員だけが医薬品の運搬ができます」(前出・物流企業担当者)

 

 さらに、医薬品を運搬する際のセキュリティも大切だという。

 

「本来、保冷車で運搬する医薬品は、中身を見てはいけないといわれています。低温で運搬する医薬品は、向精神薬や麻薬成分が含まれるものが多く、転売されるケースも想定されるからです。医薬品を運搬するということは、これほど気を遣うべきことなんです」(同前)

 

 なぜ彼らのような医薬品専門の運送業者に、ワクチン輸送の依頼が来ないのか。

 

「もともと、大手運送会社や地方自治体と取引がないので、単純に知られていないという理由はあるかもしれません。ちょと調べれば、医薬品専門の運送会社などいくつも見つかるはずなのですが……」(同前)

 

 また、日本がもともと医薬品の流通について遅れている、という事情もあるようだ。

 

「EUでは、医薬品の流通における温度管理や品質管理の基準を定めた適正流通基準(GDP)が法令化されているのに、日本は2018年に努力義務として発出されたばかりです。そのため、日本にはワクチンを輸送するための専用車両などが少ないのです」(同前)

 

 ロジスティクスを軽視して “ワクチン敗戦国” に――。これぞ日本のお家芸か。

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