7月8日、IOCと東京都などのトップによる5者協議で、東京オリンピックの都内会場はすべて無観客にすることが決定された。
同日に確認された新型コロナウイルスの東京都内における新規感染者は896人。1週間前の7月1日に比べ、223人増加と都内の新規感染者数は増加傾向にあった。
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政府も7月12日からの緊急事態宣言発令を決定していたなか、東京都の小池百合子都知事(68)は無観客開催について「都民の命と健康を守り、安全を重視した大会とするため」と説明した。
だが、一方でインターネット上では、
《EUROは準決以降は制限なしで盛り上がってるのになあ。。。イギリスは感染者数も死者数も日本より多いのにだぞ?》
《エンゼルスの試合を見ている限りだと、普通にオリンピック開催出来そうな気がしてきた》
といった声も聞かれる。
日本より感染が拡大傾向にある、欧米でのスポーツイベントの開催を例に、東京五輪の「無観客開催・中止議論」に対して疑問を持っているようだ。
海外で開かれた3つのスポーツイベントをもとに、「なぜ有観客で開催できるのか?」という疑問を、感染症が専門で新型コロナウイルスに関する発信を続けている神戸大学大学院・岩田健太郎教授にぶつけてみた。
(1)サッカー「UEFA EURO2020」
イギリス・イングランドで開かれた準決勝は9万人収容の「ウェンブリー・スタジアム」で最大6万4950人を収容して、開催された。
「EUROは11カ国の分散開催で、国とスタジアムによってレギュレーションが違います。ウェンブリー・スタジアムに関しては、抗原検査を観客の入場条件としているようですが、スコットランドからの観客の間で多くの感染者が出てしまった。抗原検査だけで感染を防ぐことは出来ていません。
しかし、イギリスはもう『コロナと共生していく』と態度を決めました。ワクチン接種率はかなり高いですが、毎日新たに3万人近い感染者が見つかり、毎日300人ほどが入院している。
死亡者も人口10万人あたり、年換算で10人ほど出ています。それでもガンや心臓発作に比べれば死者の割合はそれほど大きくないから『あきらめましょう』と決めたということです。これがいいか悪いかは、価値判断の問題だと思います」(岩田教授)
(2)F1「オーストリアGP」
観客上限がなくなり、オランダからの大応援団など、7月2日〜4日の3日間でのべ約13万2000人の観客が訪れた。
「まずオーストリアは1日の感染者が100人以下にとどまっており、かなり感染を抑えつけています。コロナを抑えつければなんでもできるということです。先ほどのEUROでも、ほとんど感染者が出ていないハンガリーは首都・ブタペストのスタジアムを満員にして開催していました。
ヨーロッパでは、コロナ対策をしっかりやったあと、経済やイベントの “ご褒美” がついてくるわけです。しかし、日本は2020年に患者が増えている状況にもかかわらず、『GoTo』をやっていた。ヨーロッパと真逆のミスをしているんです」(岩田教授)
(3)野球「ロサンゼルス・エンゼルス戦」
6月18日から本拠地「エンゼルスタジアム」は観客制限なしの最大約4万5000人収容で開催されている。
「アメリカはまだ感染が抑えられてはいませんし、バイデン大統領も『コロナとの戦いは終わっていない』と発言しています。
ただ、カリフォルニア州が経済活動の全面再開に加え、マスクを外していいなど感染対策の緩和をおこなっているのは、『その代わりにワクチン打ってね』という感じの全州民にワクチン接種を促すための方便ですよ。
一方で日本は『感染者が増えたから緊急事態宣言で』みたいな、なんのビジョンもなく、場当たり的な対応をしているだけです」(岩田教授)
岩田教授は、今回の東京オリンピックの無観客開催について「最悪の選択は避けられた」と話す。
「いちばん最悪の状況は『オリンピックが始まっちゃったから感染者が増えても対策を取りません』ということでした。無観客になって、これだけは避けられた。
はっきり言って、コロナ対策で100点の国もないし、0点の国もない。各国の政策には一長一短があると思います。『日本の対策は全部ダメ』と言う人も『批判なんて気にせず経済を回せ』という人もどっちもおかしい。
ただ、ひとつ言えるのは日本には対策のビジョンがない。これは科学的にも、理性的にも本当によくないと思います」
五輪開幕まであと2週間を切った。最悪を避けた後のシナリオはどうなったのか……。
写真・AFP/アフロ