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女にカネを奪われて捨てられた警官、サーベルで8人斬りつける/7月24日の話

社会・政治 投稿日:2021.07.24 12:00FLASH編集部

女にカネを奪われて捨てられた警官、サーベルで8人斬りつける/7月24日の話

東京朝日新聞(1913年7月24日)

 

 1913年7月24日付の『東京朝日新聞』に、「巡査の八人斬 京都鴨川縁の惨事」との見出しが踊った。まだ年若い警官が、恋の恨みから関係する男女8人をサーベルで斬りつけたのだという。

 

 当時28歳だった巡査・高橋松之助には、千代という恋人がいた。しかし、この娘は「娼妓上がりの莫連(ばくれん)女」。すれっからしでずる賢い女性のことを莫連女と呼んだが、実際、千代には松之助の前から通じていた既婚者の男がいた。

 

 

 松之助が小金を貯めこんでいることを知った千代は、男と結託する。どのような手段を用いたのか定かではないが、カネを巻き上げた末、「あなたのような学のない人と先の見込みはない」という冷たい手紙を送りつけ、見向きもしなくなったという。

 

 悲惨だったのは、松之助が千代たちの仕打ちに怒り、嫉妬に狂っている様子が、署長の耳に入ってしまったことだ。女に入れあげカネまで貢いだことを問題視されたのか、免職の辞令が下される。カネも地位も名誉もすべて失った松之助は、千代とその家族が暮らす家へ静かに押し入り、ものも言わずに眠る千代を斬りつけた。千代の悲鳴で起きた家族も滅多斬りにし、その足で男の家に向かい、同じように事を済ませたという。

 

 歴史学者の濱田浩一郎さんが、こう語る。

 

「松之助は明治43年(1910年)から京都府の巡査だったと記事に書いてあります。男女関係のもつれで免職と聞くと意外に思うかもしれませんが、当時の京都府における巡査採用試験の基準を見ると、求められていた資質が見えてきます。

 

○性格やふだんのおこないは善良か

○酒癖または暴行の癖はないか

○過激・粗暴そのほか悪評のある者との付き合いがないか

○政党または政治に関する新聞雑誌に関係したことはないか

○家族に犯罪の嫌疑もしくは前科のある者はいないか(一部抜粋)

 

 巡査を志願する人間は、素行を徹底的に調べられます。そうした事前審査や体格検査、技芸審査(筆記試験)をクリアしてようやく巡査になれるのです。そして、巡査である以上はこれらの項目をずっと守らなくてはいけません。想像するしかありませんが、嫉妬で怒り狂った巡査の姿は、人々の模範となる姿ではなかったのでしょう」

 

 松之助は、事件の直後、五條署に自首している。自身の凶行を話す声は震えていたという。いつの時代でも、恋が人を狂わせることは変わらないようだ。

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