社会・政治
愛人に1億3000万円を貢いだ女性行員「好きな人のためにやりました」/7月27日の話
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2021.07.27 08:00 最終更新日:2021.07.27 08:00
1982年7月27日、「三和銀行オンライン詐欺事件」の判決が下された。三和銀行(現・三菱UFJ銀行)茨木支店の女性行員(当時32歳)が、オンラインシステムを悪用して1億3000万円を詐取したもので、実行したA容疑者は懲役2年6カ月の刑となった。
「好きな人のためにやりました」
逃亡先のマニラで、マスコミに囲まれながらAは笑って答えた。銀行に勤めて12年ほどたったころ、家庭のある実業家にたらしこまれて関係を持ったが、次第に男は金を無心してくるようになる。あげく、「お前、銀行から金を持ち出せないか。その金でフィリピンのマニラに飛んで一緒に暮らそう」と言い出した。
【関連記事:女にカネを奪われて捨てられた警官、サーベルで8人斬りつける/7月24日の話】
1981年3月25日、Aは1億3000万円の詐取に成功し、男に金を渡してマニラに飛んだ。だが、「後から追いかけるから、先に向かっていてくれ」と言った男は、待てど暮らせど来なかった。Aがマニラに潜伏していた約半年間、男は日本で家族と豪遊しており、迎えに行く気などさらさらなかったのだ。
当時、銀行のオンラインシステムを悪用した犯罪は珍しかった。甲南大学名誉教授で、刑法を専門にする園田寿さんが、こう語る。
「日本の銀行では、1965年の三井銀行(現・三井住友銀行)を皮切りに、オンラインシステムが採用され始めました。本店と支店がオンラインでつながることで、ATMでの預金の預入れや引出し、自動引き落としサービスなどが実現したのです。
しかし、コンピューターの技術が進んでいくと同時に、コンピューターがらみの犯罪が増えていきます。三和銀行の事件が起きた1980年代は、まさに銀行のオンラインシステムが狙われ始めた時代です。当時はシステムそのものが稚拙でしたし、銀行内でしか使わない閉ざされたシステムでしたから、セキュリティ意識も低かったのです」
では、Aはどのようにして、わずか1日で1億3000万円を詐取したのか。
「3月25日に出社したAは、自分の支店のコンピューター端末を使って、あらかじめ別の支店に偽名で作っておいた4つの口座に、合計1億8000万円の架空入金をおこないました。その後すぐに歯痛を理由に早退すると、口座を作った支店に向かい、窓口で『マンションを購入するので手付金が必要だ』と話し、現金5000万円と小切手8000万円分を引き出します。
その後、Aは男と落ちあって全額を渡し、一足先にマニラに飛びました。いつまでも待っても男は来ず、Aは国際指名手配の末に逮捕されました」
Aが語った「好きな人のためにやりました」という言葉は当時の流行語になり、美人だったことから、刑務所にファンレターが殺到したと言われている。Aは模範囚だったため2年後に仮釈放されたが、この事件は、後に数多くのドラマや映画の元ネタにもなった。
Aが起こした事件は、その後、法律も変えた。
「『詐欺』とは人が人をあざむくことですが、Aがおこなった架空口座への入金は機械が処理したもので、人間は間に入っていません。この事件では、Aが偽名を使って金銭を入手したことから詐欺罪に問うことができましたが、そもそもの入金作業は当時の法律で裁けなかったのです。
そのため、1987年におこなわれた刑法改正で、『電子計算機使用詐欺罪』なるものが規定されます。これは、事務処理に使用する電子計算機に、虚偽の情報や不正な指令を与えることで利益を得る行為を罰するものです。
最近は時代の流れが速く、法律が想定する社会と、実際の現実社会との間に “隙” が生じることが多いんです。こうした隙間の犯罪を抑制するには、暗号システムの強化など、さまざまな方法で攻めていくしかないのです」