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働かない高給社員、「非正規の若者」の犠牲の上で生き残る

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2021.08.06 16:00 最終更新日:2021.08.06 16:00

働かない高給社員、「非正規の若者」の犠牲の上で生き残る

 

 日本では、1990年代以降、正規社員と非正規社員という二重構造が強化されてきた。正規社員は終身雇用、年功序列賃金制、企業別労働組合という、戦後の高度成長期に形成された日本型雇用慣行と整理解雇の4条件などの判例により、強固に定年まで雇用が保護されている。

 

 この正規社員が享受できる日本型雇用慣行を、退職金税制までもが支援している。

 

 

 退職金税制では、勤続年数が20年を超えると、超えた年数に関してはそれまでの40万円から70万円をかけた金額が退職金から控除され、その控除後の金額の半分が課税所得になるという、破格の優遇措置がとられている。

 

 これは、定年前に自己都合で退職して、転職することを不利にする税制である。つまり、20年以上定年まで同じ会社に勤めると有利になるように、税制が終身雇用制を支援し、労働の効率的配分を妨げているのである。

 

 年功序列賃金制は、生産性の比較的高い若い社員の賃金を低く抑えて、その低く抑えた分を生産性が低下した高齢社員の賃金に移転する仕組みである。これは、現役世代が支払った年金保険料で、年金給付世代の年金をまかなうという賦課方式年金と同じ性格を持った賃金制度である。

 

 この賦課方式賃金制度は、会社員のうち最も生産性の高い年齢層が厚く、かつ企業が高い成長を維持している場合には持続可能な制度である。

 

 1980年には、年齢階級別就業構成比が30~34歳まで上昇し、それ以上の年齢層の構成比は次第に低下し、定年前の55~59歳は7%だった。それが、2000年には、30~44歳の構成比が大きく低下し、50~54歳が最も多く、12%に達している。

 

 2000年の50~54歳の年齢層は、いわゆる「団塊の世代」である。この団塊の世代の比較的高い賃金を支えたのは、最も構成比の低い30~44歳の年齢層(ほぼ就職氷河期世代に相当する)であった。

 

 2019年になると、若い年齢層ほど構成比が低下し、40~49歳でピークになるが、その上の年齢層の構成比の低下は小さく、定年前の55~59歳の構成比は10%を占めている。

 

 以上のように、会社員の年齢構成が高齢化したのは、1990年代のバブル崩壊後に起きたデフレ経済の長期化に伴って、新入社員の採用が抑制されたためである。

 

 それでもいまなお、正規社員の賃金は定年まで上昇するという年功序列賃金制は崩れていない(2019年時点で、企業規模10人以上の企業では、定年前の55~59歳の賃金は20~24歳の2倍)。

 

■派遣3年ルールの存在理由はあるのか

 

 しかし、このような賃金体系を維持することは、若年層に年金保険料負担と同様に、大きな負担を課すことになり、少子化の原因になっている。それとともに、生産性の低い正規社員の解雇の難しさと、業績に応じた賃金差をつけることの難しさとが重なって、労働生産性向上の阻害要因になっている。

 

 企業、とくに大企業は1990年代以降、景気に応じた雇用調整が難しいため、雇用調整手段として非正規社員比率を高めてきた。これは、正規社員と非正規社員との賃金格差の原因になっているだけでなく、非正規社員の仕事を通じた熟練化を妨げる要因になっている。

 

 とくに問題であるのは、派遣社員は同じ職場で3年を超えて働き続けることはできないという「派遣3年ルール」である。このルールは派遣社員の雇用を不安定にするだけでなく、彼らのスキルアップを阻害している。

 

 このルールの存在理由を理解することは困難である。唯一考えられる理由は、正規社員の地位を獲得している労働者が「非正規社員のスキルがアップして、自らに取って代わられる(これを常用代替という)ことを防ぐ」ことであろう。

 

 実際に、著者が勤務していた大学では、正規社員はまったく仕事をせず(事務室で、1人で歌を唱いながらダンスをしていた)、もっぱら正規社員よりもはるかに低い賃金の非正規社員が仕事をこなしていた。

 

 ところがある日、急にその非正規社員が雇用契約を一方的に破棄された。労働法を知らない著者はこの解雇の理由が分からず、びっくりした。

 

 当時はまだ、パート、アルバイト、派遣、契約社員などの有期労働契約で働く人が、同じ会社で雇用契約を繰り返して契約期間が5年を超えると、契約期間中に次の契約時に無期労働契約への転換を求めることができるという「無期転換ルール」(2013年4月の「労働契約法」の改正に基づき18年4月から適用開始)は存在しなかった。

 

 しかし、労働法の専門家によると、事実上、パート契約を更新し続けると契約解除が難しくなるという話であった。おそらく、そうした事実上の契約解除の困難さが、そのときの解雇の理由ではなかったかと推測する。

 

 中小企業保護政策と同じで、正規社員の雇用を定年まで保障し、年功序列賃金制を適用すれば、正規社員の中に賃金に見合った仕事をしなくなる人が少なからず現れる。これは、日本の大学は努力して勉強しなくても卒業できることと同じ現象である。

 

 以上から、労働の配分の効率化のためには、派遣雇用の期限制限を撤廃する必要があるのだ。

 

 

 以上、岩田規久男氏の新刊『「日本型格差社会」からの脱却』(光文社新書)をもとに再構成しました。信じられないくらい「貧しい国」になってしまった日本。前日銀副総裁が、成長への処方箋を明かします。

 

●『「日本型格差社会」からの脱却』詳細はこちら

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