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注目の若手論客! 斎藤幸平「共産主義のすすめ」(2)気候変動と貧困をなくすため「今すぐマルクスに向かえ」

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2021.08.11 11:00 最終更新日:2021.08.11 11:00

注目の若手論客! 斎藤幸平「共産主義のすすめ」(2)気候変動と貧困をなくすため「今すぐマルクスに向かえ」

マルクスの生誕200周年の2018年、出生地であるドイツ南西部トリーアで銅像が除幕された 斎藤幸平氏(写真:時事通信)

 

 世界中で被害をもたらしている気候変動を食い止めるため、各国は「脱炭素化」へ舵を切った。そのなかでグリーン・ニューディールという、経済活動と環境保全の両立を目指す政策が先進国で取られているが、地球存続のためには経済成長そのものをやめなければ無意味だと主張する論客がいる。マルクスの思想を援用し「脱成長コミュニズム」を掲げる斎藤幸平氏だ。

 

 

 著書『人新世の「資本論」』(集英社新書)は30万部を超えるベストセラーとなり、今最も注目を集める若手論客である。崩壊したソ連や共産主義のイメージが強いマルクスがなぜいま必要なのか。そもそも経済成長なくして私たちの生活は成り立つのか。資本主義を超える「第三の道」を実現する方策を聞く。

 

ーー「脱成長コミュニズム」とは一体何なのでしょうか?

 

 それを説明するには、まず、資本主義が現在どのような状況なのかを考えなければなりません。人間の経済活動というものがどんどん大きくなっていった結果、地球上どこを見渡しても、道路や建物、農地、ダム、ゴミ捨て場などという形で、人間の手が加えられた状態になってしまっている。つまり、人類の経済活動が生み出した地層ができていて、それを「人新世」と呼ぼうという議論が地質学のなかで行われています。地層以外でも、海にはマイクロプラスチックが大量に浮かび、大気中の二酸化炭素も激増している。これも人間の経済活動、つまり資本主義のせいですよね。気候変動に代表される環境危機の犯人は資本主義なのです。

 

 いま、各国が目標とするカーボン・ニュートラル(温室効果ガスの排出量ゼロ)を2050年までに達成しようとすると、これまで通りに経済成長を続けながら、技術革新だけによって二酸化炭素やその他の環境負荷を減らしていくというのは、理論としては成り立っても現実問題としては相当難しい。それが十分に早く行われるということを示す過去のデータはどこにもありません。そうすると私たちはどこかでこの無限の経済成長というものをやめていく、すなわち「脱成長」という考え方を真剣に議論すべき段階に来ているのです。

 

 一方で、脱成長経済へ移行すべきだということ自体は、さまざまな人たちが繰り返し言ってはきたのですが、そうした議論が不十分であったのは、資本主義のもとでも脱成長は可能だという考え方だったからでした。しかし、資本主義で脱成長を唱えるのは、四角で丸を描け、というようなものです。資本主義の本質は、利潤を追求するもの、成長を求めるものだからです。だから、脱成長コミュニズムが重要なのです。

 

 ただ、誤解されやすいのですが、ソ連や中国みたいな社会は国家型資本主義です。そういう社会とは全く異なる、コモン(共有財産)を重視した社会が必要です。

 

 なぜコモンに依拠した社会が必要かというと、水とか電気とか食料とか、エッセンシャル・ワークに代表される教育や医療といった、誰もが生きていくうえで最低限必要とするものやサービス、すなわちコモンは、あらかじめみんなでシェアするような制度設計にすれば不平等が生じないからです。

 

 逆に、資本主義はコモンをどんどん解体して発展してきたシステムです。その結果として、水や電力や教育といった公共性の高い領域にも市場原理が及び、お金のない人たちはそれらへのアクセスから排除され、お金を持っている人たちはどんどん自分たちに都合のいい便利な生活をつくっていく。本来限りある資源をそうした一部のお金を持っている人たちが独占してしまうと格差などの支障が社会で生じる。それを防ぐために、最低限必要なものはみんなで管理し、企業に独占させないで公的なセクターや市民が主体となってそれらをシェアしていくことが必要であり、それがむしろ豊かさの条件なのです。

 

 コミュニズムやマルクスというと、労働者たちが団結して革命を起こして資本家たちをぶっ潰すみたいなイメージを抱く人が多いですが、マルクス自身も晩年はそのような革命のビジョンを取っていませんでした。むしろ今の資本主義の枠内で徐々にコモンを広げていく、それによって商品経済の領域を狭め、貨幣や資本が持っている力を弱めていく。そうすると、完全には市場も貨幣もなくなりませんが、どこかで不可逆的な転換が起こり、コミュニズムに相当する社会、少なくとも資本主義とはいえないような社会になるはずだと彼は言っていたのです。

 

ーー資本主義の枠内でコモンを広げるということは結局、資本主義が残るということでしょうか?

 

 いえ、資本主義は終わらせなければなりません。なぜ終わらせなければいけないかというと、資本主義というマルクスの言葉を使えば無限の資本蓄積、一般的な経済学の言葉では経済成長を、有限な地球で続けていくことは不可能だからです。

 

 また、資本主義というのは生み出した富を強者が全て独占していくシステムです。そういう観点からも、批判され、修正されなければなりません。資本主義のもとで一定程度の平等が実現した時期というのは、20世紀の第二次世界大戦後の高度成長期のわずか数十年の間だけでした。それも、女性に再生産労働を押し付け、途上国の人達に犠牲をしいてなりたっていた見せかけの平等です。であるならば、やはりどこかで資本主義そのものにブレーキをかけなければなりません。持続可能性と社会的平等を同時に担保するような道というのは、資本主義ではない社会のうちにある。そういう意味で、私はマルクスが有用な思想家だと思うのです。

 

 さいとうこうへい

’87年生まれ 経済思想史研究者。大阪市立大学大学院経済学研究科准教授。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。博士(哲学)。専門は経済思想、社会思想。

 

写真:時事通信

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