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「飲み屋はインフラ」コロナ禍で社会は“夜の街”から崩れ出す…スナック研究者が規制に警鐘
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2021.08.25 14:30 最終更新日:2021.08.25 14:42
緊急事態宣言が延長され、最大の懸念のひとつとなっているのが、飲食店への営業規制だ。とくに酒類提供の禁止で苦しむのは、店舗、酒メーカー、利用客と広範囲にわたり、「なぜ酒だけが狙い撃ちされるのか」という疑問の声が全国で噴出している。
規制がもたらす影響は経済的損失にとどまらず、営業の自由の制限、人々が集い語らう権利の侵害といった問題にまで至っていると警告する論客がいる。「スナック研究会」を主宰し、コロナ禍での「夜の街」のゆくえを調査している、東京都立大学法学部教授の谷口功一氏だ。
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谷口氏は、居酒屋やスナック、バーといった社交の場を「夜の公共圏」と呼び、それは人々を孤立から守るコミュニティであり、民主主義を下支えする重要な役割を担っていると強調する。
「『公共圏』というのは、哲学者ハーバーマスの作った言葉です。人々が集い、雑誌や新聞に書いてあることを論じ合うような空間で、イギリスのパブやオランダのコーヒーハウスなどが典型です。
通常、公共性(公共)という言葉から思い浮かぶのは、昼間のお天道様の下でおこなわれるボランティアやNPOなど“健全”なもの。しかし、人間の一生の半分は夜のうちにあり、『夜の社交』も人間の社会活動の大きな部分を占めています。要するに会食・飲み会なども社会的な意義を持っているということです」
公共圏に、酒は必要不可欠なのだろうか?
「人類と酒の付き合いは長いです。1910〜1930年代、アメリカで禁酒法が施行・廃止された際の経緯を見ても分かる通り、押さえつけることは不可能で、何がどうあっても人々は飲むということ。『必要』なのではなく、人間の本性からする『必然』。それが酒です」
「夜の街」への規制は、日本国憲法ともかかわる問題だという。
「いとも簡単に時短や休業要請がおこなわれていますが、夜の街の飲食店にしてみれば死活問題。そこで抑圧されている『営業の自由』は、じつは憲法上の権利で、軽々しく規制できるものでありません。
従来、報道の自由も含む精神的自由への規制は簡単には実施できなかったのに対し、営業の自由などの経済的自由への規制は頻繁におこなわれてきました。ワイドショーの害悪を認識していない人はいませんが、なぜそのようなものを『自由』の名のもとに野放しにする一方、営業の自由をないがしろにするのか、大いに疑問。
精神的自由が社会秩序の中核をなすことは認めますが、営業の自由(経済的自由)への誠実な説明がなされない中で一方的な規制が続くようなら、立憲主義自体の基礎が掘り崩され、恐ろしいことが起こります」
「夜の街」が失われる影響は、都市と地方で異なる。また、選挙にもかかわる問題だと谷口氏は主張する。
「飲食業は身ひとつで店を起こし、成り上がることも可能な反面、そこへと流れ着く人々も多い領域。そのような人々の居場所をなくすことは、まわりまわって社会全体の治安にも関わることになり、他人ごとではないと私たち全員が認識すべきです。
夜の店がなくなることは、地域社会や政治にも甚大な影響が及びます。現時点の緊急課題は、独居高齢者。スナックがなくなれば、孤食になり、死亡率が激増します。『一日、誰とも話さなくなった』という人もいます。コロナとは別に認知症予防の点でも、重大な公衆衛生上の問題が生じています。
また、都市部のホワイトカラー層には分かりづらいかもしれませんが、『地元のことが分からなくなった』と話す地域住民が多い昨今の状況で、選挙ひとつやるにも、夜の社交が失われれば票読みさえ満足にできなくなります。地方の夜の街には、訃報から新規出店、土地売買など、人間関係の重要な情報が集まります。現在、住民のみんなでなんとか店がつぶれないよう、陰に陽に支えている光景が全国で見られています。たかが飲み屋ではなく、デモクラシーを下支えしているインフラとして捉えなおすべきです」
7月に飲食店への酒類提供を酒販業者にやめさせるため、銀行を使って締め上げようとし、のちに撤回した西村康稔経済再生相に対しては「一生、外食させないようにしたい。店に来たら塩を撒いて追い返す」といった飲食店主の声もよく耳にするという谷口氏。飲食店関係者と利用者の怒りは限界に達し、大きな世論を形成しつつあることを、政治家は認識すべきだ。