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東大前刺傷事件 容疑者少年が通う「東海高校」OBが心中吐露「自由放任の素晴らしい学校なのに…彼が対応できなかっただけ」

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2022.01.27 15:40 最終更新日:2022.01.28 23:02

東大前刺傷事件 容疑者少年が通う「東海高校」OBが心中吐露「自由放任の素晴らしい学校なのに…彼が対応できなかっただけ」

事件翌日の共通テスト2日目、警備が強化された現場周辺(写真・共同通信)

 

 1月15日に東京大学弥生キャンパス前で、大学入学共通テスト受験生ら3人が刺される事件が発生した。逮捕されたのは、17歳のA少年。中京圏で随一の歴史を持つ進学校、私立東海高校の2年生だ。

 

 同校はスパルタや管理教育とは対極にある自由な校風で知られる。OBには哲学者の梅原猛や建築家の黒川紀章、数学者の森重文といった国際的な文化人も多い。OBたちに語ってもらい、少年が凶行に走った動機に迫る。

 

 

 東海中学校・高等学校は、1888年に浄土宗学愛知支校として名古屋市に設立された。戦前から進学校として知られる中高一貫の男子校だ。

 

 同校を2021年に卒業し、都内の有名私大に進学したSさんは、A少年の2年先輩にあたる。

 

「彼のことは直接には知りませんが、僕は中学から入学した『内来』で、A君は高校から入った『外来』のようですね。東海に高校から入るのは難しいので、それなりに勉強はできたんじゃないんですか? 1学年は440人もいるので、同学年でも全員のことはわからないんです」

 

 高校での募集枠は40名。中学からは、その10倍の人数が上がってくる。外来はそもそも少数派なのだ。

 

 東海では高2になると、生徒を成績順に理系と文系それぞれでA群とB群に分ける。東大理3を目指していたA少年は、成績上位の理系A群に入っていた。Sさんは「僕なんてずっとB群」と屈託なく笑うが、そんな素直なお坊ちゃんタイプが多いところも同校の特徴だ。

 

「成績による序列はあるけど、引け目は感じませんでした。先生もとやかく言いませんし。東海は放任主義といわれるけど、当たっていると思います」

 

 学ぶ意欲を見せる生徒には親身に寄り添うが、決して鋳型に嵌めようとはしないという。Sさん自身、同校では“不良”のひとりだった。

 

「中学時代はやんちゃというか、授業中に騒いで妨害しちゃう側でした。それが部活に入って変わりました。1学年上に同じような不良っぽい先輩がいたんですよ。その先輩が先に入部したのが『カヅラカタ歌劇団』でした」

 

 これは男子だけで宝塚歌劇を演じようという部活動で、約20年前に文化祭の関連行事として始まった。10年前に部活に昇格し、毎年春と秋におこなわれる公演は3000人もの観客を集め、今や同校の名物となっている。舞台で輝く先輩を見て感激したS君も、中2で入部を決めた。

 

「カヅラカタに入らなければ、僕もどうなっていたかわかりません。まあ、それでも部活を引退する高2の秋までは勉強に身が入らず、オンラインゲーム『荒野行動』に熱中し、部活のない放課後は『荒野部』と名乗って、先輩や後輩も交えてずっと遊んでましたけど(笑)」

 

 しかし、Sさんは引退とともにゲームから足を洗い、受験勉強に勤しんだ。そして、志望大学へ現役合格を果たす。憧れの先輩も同様に、高3でのラストスパートで早大合格を決めていた。

 

「僕はともかく英語が苦手で、過去分詞って何? って感じでした。でも、休み時間や放課後に職員室へ行くと、英語の先生が喜んで、熱心に質問に応じてくれて、すごく助かりました。確かに外来生にはガリ勉タイプが多いけど、パソコンが好きで自分でプログラミングしたり、ボーカロイドの楽曲を自作するなど、ユニークな子も多かったように思います。オタクだからってバカにもされないし、そんな個性が認められ、だんだん馴染んでいくものだけど…A君はどうだったんですかね?」

 

 東大理3志望を周囲にも吹聴していたA少年は、国公立の推薦を勝ち取るのに重要な内申点を上げようと、クラスの誰もが嫌がる掃除係を自ら買って出たという。その話をSさんにすると、いきなり爆笑した。

 

「媚びを売って点数稼ぎしても先生たちは気に留めないですよ。A君はまるでわかってませんね。僕が高2のときにはクラスで掃除係のなり手がなくて、仕方ないので担任の体育の先生がやってましたよ。『僕は勉強を教えられないから』って。それも今から思うと、申し訳なかったなあ(笑)」

 

 A少年には目立ちたがりな面もあり、高1の秋には生徒会長に立候補した。そこで掲げた公約は「スマートフォンの教室への持ち込み禁止」など時代に逆行するお題目ばかり。このエピソードに「ああ、あの子がA君なんですか!」とSさんは驚きの声を上げた。

 

「高3の僕らに投票権はないし、スルーしていたんですが、演説会に行った友達がいたんですよ。彼が『スマホ禁止なんて言うとるスゴいヤツがおった』と騒いでたんで、気にはなっていたんです」

 

 演説会ではユーモアを交え、ジョークも飛ばし、いかにウケを狙うかも問われるが、A少年の演説は至って真面目で、聴衆も白けていたという。

 

「毎年東大に30人、京大には40人前後は受かっていますが、東大理3に進学するのは数学や物理オリンピックのメンバーになるような連中ばかり。しかも、年にせいぜい1人か2人じゃないでしょうか。2021年のショパン(国際ピアノ)コンクールに出場し、2次予選まで行った沢田蒼梧君は現役の名古屋大学医学部生ですけど、優秀層にはそんなマルチなタイプがとくに多いんです」

 

 沢田氏はお笑い好きで、名大入学後は漫才コンビを組んでいた時期もある。一芸に秀でるどころか、“武芸百般に通ず”という、こんなOBが東海にはざらにいるのだ。

 

 しかし、A少年の成績は、高1最初の実力テストでは54位、2回目は15位と好調だったものの、高2になって130位くらいに落ちたという。B群降格スレスレというところだ。2021年11月のテストでは、高1時に同じクラスだった外来生が学年トップに立った。そこで一気に落胆し、今回の犯行を思いついたようだ。

 

「小学校や中学校で1番、2番だった生徒が入ってくる学校なんで、負けず嫌いはみんな同じなんですよ。でも、上には上がいる現実にすぐ直面する。僕なんてあっさり諦めちゃった口。でも、部活が居場所になりました。そこでも僕より歌も演技もずっと上手い同級生や後輩が大きな役をもらってはいたけど、僕も自分なりに打ち込んで、“やればできる”とわかったんです。A君はその切り替えができなかったんですね…。学校の教育やシステムに問題があったとは僕には思えません」

 

 自由な校風だからこそ、その中で力を発揮できなかったA少年は、自分で自分を許すことができなかったのかもしれない。

 

文・鈴木隆祐

 

( SmartFLASH )

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