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水道法改正で「日本の水」がハゲタカ外資に乗っ取られる!

社会・政治 投稿日:2017.03.17 20:00FLASH編集部

水道法改正で「日本の水」がハゲタカ外資に乗っ取られる!

『写真:AFLO』

 

 2013年4月19日、麻生太郎副総理は、米国の戦略国際問題研究所で行われた記者会見で「世界中ほとんどの国で、民間会社が水道を運営しているが、日本では、国営もしくは市営・町営である。これらをすべて民営化する」と発言した。実際には、民営水道の給水人口は8億人程度なので「世界中ほとんどの国で、民間会社が水道を運営している」は間違いだ。

 

 水道の民営化とは聞き慣れない言葉だが、今国会で提出が見込まれる「水道法改正案」が可決すれば、水道の企業運営が実現する。

 

 水道事業をリードしているのは欧州企業で、なかでもヴェオリア・エンバイロメント社とGDFスエズ社が2大巨頭とされる。ともにフランス企業だが偶然ではない。

 

 フランスは自治体の規模が小さく、人口6500万人に対し、自治体数は3万7000もある(日本は人口1億2700万人、自治体数約1743)。うち9割の自治体の人口は2000人足らずのため、各自治体は交通、ゴミ収集、水道などの行政サービスを民間企業に任せてきた。

 

 1980年代、フランスの上下水道の市場が飽和し、大統領のトップ外交によって海外進出が図られた。ヴェオリア、スエズは先行者の利を活かし、民営化された世界の水道事業を握り、「水メジャー」「ウォーターバロン(水男爵)」などと呼ばれた。

 

■ヴェオリアとスエズの歴史

 

 ヴェオリアは、ナポレオン三世の勅命によって、1853年にリヨン市で創業した会社が母体となっている。現在は4つの事業会社(水、エネルギー、廃棄物処理、公共輸送)のコングロマリットで、グループの売上げは年間3兆円を超える。水道事業は世界100カ国で行われ、売上げは約1兆円。

 

 スエズは、1869年に開通したスエズ運河を建設・運営していた会社が元になっており、上下水道事業を行うスエズ・エンバイロンメント社が事業を行っている国は130カ国に及ぶ。売上げはヴェオリアとほぼ同規模だ。

 

 活況する水ビジネスに対し「生命にかかわる水を商売にしてはならない」という反対意見は根強い。それは1990年代を中心に多くの失敗事例があるからだ。

 

 水メジャーのやり方で問題視されたのは「フルコスト・プライシング」といって、事業にかかった費用の全額を地域の受益者から取り戻すというやり方だ。

 

 事業に費用がかかれば、水道料金はどんどん上がる。富裕層には問題ないが、貧困層は安全な水にアクセスできなくなる。極論を言えば、金持ちしか使えない水道になる可能性がある。また、投資に見合ったリターンがなければ、クールに撤退してしまうケースも多い。

 

 南米ボリビアのコチャバンバ市では、1999年、水道事業が民営化された。その結果、水道料金が何倍にも値上がりし、最低月給が100ドル以下なのに、水道代が20ドルにも上がった。市民はストライキをはじめとする大抗議行動を行い、街の機能は停止。結局、水道事業は公営に戻った。

 

 アルゼンチンでも、民営化後に水道料金が上がり、支払えない人は供給停止された。市民は大規模な抗議行動を重ね、現在、水道事業は公営に戻っている。

 

■なぜイギリスの水道は民営化されたのか

 

 こうしたケースは発展途上国特有のもので、先進国には該当しないという声がある。そこでイギリスのケースを紹介する。水道企業はヴェオリア、スエズという2大勢力だが、かつてはテムズウォーターを含め「3大水メジャー」といわれた。

 

 テムズウォーターは1989年、イギリスの深刻な財政難から生まれた。当時のサッチャー首相は「小さな政府」の実現を公約し、公共事業だった電話、ガス、空港、航空会社などを次々と民営化した。

 

 しかし、それでも水道事業の経営は改善できなかった。水道料金は上昇し、水の質は低下した。1990年代になると、水質検査に合格する水道水は85%に低下し、漏水件数も増えた。その一方で、株主配当や役員報酬は十分な金額が支払われた。

 

 1999年、ブレア政権になると、民間水道会社は強制的に料金引き下げを強いられた。この結果、各社の経営は悪化し、国際的な買収合戦が始まった。公共性の高い水道事業は「投資先」の一つとなり、転売や乱売が繰り返された。

 

 イギリスでは、株式の売却により水道事業を民営化したことで、結果として政府は財政的な収益を得ることができた。しかし、水道料金の値上げ、水質の低下、外国企業による支配などの問題へ発展した。日本でも水道が民営化されれば、同様のことが起きる可能性がある。(以下次回)

(水ジャーナリスト・橋本淳司)

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