社会・政治
韓国大統領選で明らかになった嫌韓保守にとって不都合な真実…「日本はもはや手強い相手ではない」
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2022.03.01 06:00 最終更新日:2022.03.01 06:00
3月9日、韓国大統領選が投票日を迎える。4人の主要候補のうち、世論調査でトップを争うのが、与党「共に民主党」の李在明(57)候補と、最大野党「国民の力」の尹錫悦(61)候補だ。韓国ギャラップが2月25日に発表した世論調査では、李候補が38.0%、尹候補は37.0%と支持率は拮抗している。
慰安婦、徴用工、竹島、輸出規制、GSOMIA(軍事情報包括保護協定)ーー。韓国との間に多くの難題を抱える日本にとって、気になるのは李氏、尹氏のどちらがより「親日」かということだ。
【関連記事:韓国のテレビは「日本のパクリばっか」ワースト番組は?】
だが、東京大学大学院の木宮正史教授はこう戒める。
「日本のメディアは『反日・親日』という二項対立の古い図式にとらわれています。そもそも日本は、今回の選挙戦で争点にすらなっていません」
文在寅政権が誕生した2017年には、慰安婦問題が再燃。朴槿恵氏が大統領になった2012年も、竹島問題で日韓関係は揺れに揺れていた。だが今回、「日本は無視されている」と言うのは、神戸大学大学院の木村幹教授だ。
「テレビ討論会で、司会者が日韓関係について質問しましたが、4人の候補者はいずれもノーコメントでした。日本にまったく関心がないわけではないし、日本が嫌いだという国民感情がなくなったわけでもないですが、もはや日本は警戒すべき手強い相手ではなくなったのです。『日本無視』よりは『日本不在』と言ったほうが適切かもしれません」
その背景には、日本の地位低下と韓国の成長がある。木宮教授が言う。
「1990年代までは、韓国にとっていちばん大事な国はアメリカで、2番めが日本でした。今も、アメリカ第一は変わらないが、それと同じくらい重要なのが中国です。
では、日本が3番めかというと、クエスチョンマークがつく。韓国の国力が上がったことで、日韓が、かつての補完し合う “非対称” の関係から、競争する “対称” の関係に変わってきたからです」
日本の「嫌韓保守」にとって、「反日」どころか無視されている現実は “不都合な真実” に違いない。“敵” がいなくなってしまうからだ。
では、李氏、尹氏のどちらが勝っても、日本への影響は変わらないのか。
「李氏は文在寅政権の対日政策を継承するでしょうから、日本への厳しい姿勢が続くことが予想されますが、尹氏は金大中‐小渕恵三時代の『日韓パートナーシップ宣言』のころに戻すと言っており、日韓関係の改善に意欲的です。尹氏のほうが望ましいというのが、日本政府の本音でしょう」(前出・木宮教授)
だが、それでも慰安婦、徴用工、竹島など、両国の懸案はくすぶり続けるという。
「今のようなギスギスした雰囲気が変わる可能性はありますが、では両国で争っている問題が解決できるかというと、それは楽観的すぎます。韓国世論が許さないし、尹政権になっても、野党(現与党)が国会の6割の180議席を占める。法律を通すことも、ままならないわけです」(同前)
今回、史上初めて選挙戦中に3月1日を迎えることを指摘するのは、『コリア・レポート』編集長・辺真一氏だ。
「3月1日は韓国の独立運動の記念日『三一節』ですが、李氏はこの日に向けて強硬なメッセージを出すでしょう。日本に融和的な尹氏との差別化を図る作戦です。尹氏が沈黙を守れば『親日』のレッテルが貼られる。それを避けようと、尹氏も日本を攻撃せざるを得ないかもしれません」
一方、米中対立のもと、新たな可能性を見いだせるというのは、同志社大学の浅羽祐樹教授だ。
「文在寅政権では、外交は北朝鮮政策に “従属” していた。中国に対しては、THAADミサイルを追加配備しない、アメリカのミサイル防衛に参加しない、日米韓の安保協力を軍事同盟にしないと約束する『三不政策』を採っていたが、李氏もそれを踏襲するはずです。尹政権が誕生した場合、北朝鮮や中国に対するスタンスも変わり、本来採るべき外交政策になるでしょう」
“共通の悩み” があるゆえに、日韓は手を取り合えると、前出の木宮教授が言う。
「バイデン政権は日韓との同盟を重視すると言っていますが、どこまでアジアに関わるのか100%信頼できるわけではありません。日韓にはアメリカにどう働きかけるかという共通のテーマがある。『悩みを共有して知恵を出し合い、協力すべきところは協力する』、そういう関係に持っていく必要があると思います」
未解決の課題はあるが、安保や経済面での日韓協力は不可欠。“未来志向” の関係構築に期待したい。