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SNSに「ブタ」と書いたら懲役刑…侮辱罪の厳罰化で「政治家の悪口も言えない」

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2022.03.10 20:00 最終更新日:2022.03.10 20:00

SNSに「ブタ」と書いたら懲役刑…侮辱罪の厳罰化で「政治家の悪口も言えない」

 

 3月8日、政府は「侮辱罪」の厳罰化を盛り込んだ刑法改正案を閣議決定した。今回の改正案で、他人を侮辱すれば、1年以下の懲役・禁錮または30万円以下の罰金となる。これにより、SNSなどでの誹謗中傷が抑えられると期待されている。

 

「2020年、女子プロレスラーの木村花さんが、SNSでの誹謗中傷を苦に自ら命を絶ちました。この事件がきっかけで、厳罰化の議論が始まりました。

 

 

 警視庁は木村さんへの誹謗中傷をおこなったとして30代の男性を『侮辱罪』の容疑で書類送検しましたが、男性はたった9000円の科料で放免となったことから、より厳しい刑罰を求める声が上がったのです」(政治ジャーナリスト)

 

 侮辱罪とは、「公然と人を侮辱すること」を禁じた法律で、ウェブやSNSなど、誰もが読めるような場所で他人を蔑視したりバカにしたりすることも含まれる。過去には、ライブ配信に出演する被害者に対し「ブタ」と発言したり、ネット掲示板に実名とあわせ「アホ丸出し」と書き込みしたことで摘発されている。

 

 ニュースサイトのコメント欄には、《誹謗中傷と捉えられないように相手の気持ちを考えた言葉の選び方って大事だと思う》といった賛成意見と同時に、「政治家の批判ができなくなる」といった意見が相次いだ。

 

《(侮辱罪が)権力者の隠れ蓑に使われ、悪政に対する批判を封じ込める効果の方が大きいように思える》

 

《時の権力者の気分を害したかどうかによって逮捕されることにもなりかねないから、適用基準と範囲は絶対に明確化して欲しい》

 

 SNSでは、侮辱罪の厳罰化に納得している人も多いが、今回の改正案について「大問題だ」と強く否定するのは、ネット上の誹謗中傷に詳しい吉峯耕平弁護士だ。

 

「侮辱罪の『侮辱』とは、簡単にいうとひどい悪口のことです。悪口は、褒められたものではないですが、基本的に違法ではなく、刑法は介入しません。ただ、あまりにひどい悪口は無視できないので、侮辱罪が適用されます。

 

 今回の法改正は、『拘留・科料』という非常に軽い犯罪だった侮辱罪が、本格的な犯罪になるということです。何が侮辱にあたるのか、その基準は曖昧にならざるを得ないので、非常に大きな問題をはらんでいます」

 

 吉峯氏は、侮辱罪の厳罰化について2つの問題があるという。

 

「もともと侮辱罪の法定刑はきわめて軽い『拘留・科料』で、立ち小便や物乞い行為(軽犯罪法)と同じでした。これは、いわば、『準犯罪』といった位置づけでした。

 

 ところが、改正案で1年以下の懲役刑と罰金刑が追加されました。同程度の法定刑として、痴漢や遺失物横領があります。暴行は懲役2年までだから、それよりは軽い。いわば、正式に犯罪の仲間入りをしたことになります。

 

 そうすると、単なる悪口と侮辱をどう区別するかの基準が、今まで以上に大きな問題になります。はっきり言って、明確な基準を作ることはできません。

 

 基本的には、よっぽどひどいものが侮辱として立件されますが、明確に何がOKと示すことは難しいし、恣意的な摘発もとても心配です。すると、悪口を言うと犯罪になるかもしれないとみんなが考えてしまう。これを『萎縮効果』といいます。

 

 侮辱が本格的な犯罪になると、萎縮効果が強く働きます。本来は適法で、刑法が介入するべきではない言論まで萎縮してしまう。我々にとって重要な、『表現の自由』が大きく損なわれてしまうのです」

 

 そしてもうひとつは、手続きの問題だという。いったいどういうことか。

 

「刑法など基本六法の改正は、法制審議会で時間をかけて審議されます。今回、『民事訴訟法のIT化』という別案件も閣議決定されました。これは、法制審議会を1年半ほど、23回も継続して開いて、慎重に議論して、ようやく案ができました。また、法制審議会の前に検討会と研究会を2回開催しています。基本法を変えるというのはそれくらい大変なことで、慎重な手続が必要です。

 

 ところが、侮辱罪の法制審議会は、去年の9月と10月の2回しかやっていません。憲法の『表現の自由』を制限する非常に重要な問題ですから、単発の論点とはいえ、こんな簡単に刑法を変えてしまうのは恐ろしいことです。マスコミも含め、誰も何も言わないのが不思議です」

 

 吉峯氏は、「悪口は基本的に罰しないことが重要」だと言う。

 

「たとえば『安倍は独裁者だ!』みたいなことを言う人はいっぱいいます。牢屋に入れられることを心配しないで、悪口を自由に言えることは、我々の社会の重要な価値です。

 

 今回の立法のきっかけは、多数の悪口が集まってプロレスラー木村花さんが自殺した事件です。多数の悪口のなかには極めて悪質なものもありましたが、悪口を犯罪として摘発するよりも、世論を煽った番組づくりや、出演者を守らない局の姿勢を改めるべき問題です。安易に悪口を規制したら、この国から『表現の自由』が失われてしまいます」

 

 誹謗中傷が問題なのは言うまでもないが、「悪口」を法律で規制するのは簡単ではない。政府は、改正案の今国会での成立を目指しているが、その行方を注視しておく必要がありそうだ。

 

( SmartFLASH )

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