東京・港区のウクライナ大使館前。在日ウクライナ人のナザレンコ・アンドリー氏(27)は、高々と国旗を掲げた。
「故郷・ハリコフでは、私が通った中学校も専門学校も破壊されました。実家から50m先の家にも爆弾が落とされ、両親はハリコフから80km離れた町に避難しましたが、そこもいつ狙われるかわかりません。恐怖と怒り、悲しみが交互に訪れる精神状態です」
【関連記事:トランプ大統領にカジノで勝った「日本人男」が惨殺されるまで】
ナザレンコ氏は貿易会社に勤務しながら、ツイッターやメディア出演で、ウクライナ侵攻について盛んに発信を続けている。だが、本誌のインタビューでナザレンコ氏が強調したのは、日本の “危機” だった。
「今回、ロシアは日本を『非友好国』と認定しました。すでにオホーツク海や日本海で、中国軍と何度も軍事演習をおこなっており、領空侵犯も繰り返しています。ウクライナの現状は、日本にとって他人事ではないのです」
そして今、中国がウクライナ情勢を注視しているという。
「ロシアがウクライナを占領すれば、中国は台湾侵攻を決め、沖縄や日本本土も標的になる可能性がある。中国船が尖閣諸島周辺で領海侵犯し、北朝鮮のミサイルも日本海に飛来しています。中国、ロシア、北朝鮮に囲まれた日本のほうがよっぽど危険です」
日本が攻め込まれた場合、アメリカが守ってくれるという考えは甘いという。
「中国が尖閣を占領しても、『派兵すれば第三次世界大戦になる』といった理由をつけ、アメリカは介入しない可能性がある。どこも自国第一です」
“平和ボケ” の日本人には、当事者意識が決定的に欠けているという。
「ウクライナも “平和ボケ” でした。かつてウクライナは、ロシアとアメリカに次ぐ世界第3位の核保有国でしたが、すべての核兵器をロシアに譲り、80万人の軍隊を20万人に削減しました。代わりに米英露はウクライナの安全を保障すると約束したのです。しかし、ロシアはウクライナに侵攻し、米英は軍隊を派遣していません」
日本では、これ以上犠牲者を出さないために、ウクライナは降伏すべきとの声もある。
「ウクライナにとっては迷惑な考えです。降伏したら、待っているのは民族への弾圧、そして虐殺です。独裁主義に勝たせた先例を作ってはなりません」
橋下徹氏など、「逃げろ」とまで言う論者もいる。
「ポーランドに逃げたら、今度はポーランドが侵攻されてしまうかもしれない。一度領土を譲れば、ウクライナ人の居場所はどこにもなくなる。そもそも、先祖代々の土地を明け渡す理由などありません」
最終的には、兵力や装備で圧倒しているロシアが勝利するーーこの見方にも、ナザレンコ氏は反論する。
「ロシアの計画では2日間でキエフを落とすはずが、2週間戦って大都市をひとつも占領できていない。ロシアはすでに負けています」
そして、ロシア国民の反戦感情も高まっている。
「ソ連崩壊後のロシアで生まれた世代は、西側の自由を当たり前のように享受してきたので、ロシアが “大きな北朝鮮” になることを絶対受け入れないでしょう。最後はクーデターで、プーチンが失脚することを祈っています」
私たちに代わって、ウクライナは民主主義を守るために戦っている。