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“プーチン擁護メール” が続々と…評論家・古谷経衡氏が警鐘「ウクライナ侵攻で “笑えない陰謀論” が復活した」きちんと叩かないと“第2のオウム真理教”を生む!
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2022.03.15 11:00 最終更新日:2022.03.15 14:10
2月24日、ロシア軍が突如開始した隣国ウクライナへの侵攻。2週間以上経過した今でも、終結への糸口は見えず、ウクライナ国内では民間人を巻き込んだロシア軍の攻撃が続いている。
しかし、インターネットの一部では、この侵攻自体をまったくの “フェイク” だとしたり、ウラジーミル・プーチン大統領とロシア軍による「正当な軍事作戦」だと主張する人々もいる。
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《プーチンは悪くない!ウクライナ政府とDS(編集部注:ディープステート=世界を操る影の政府)腐ってる》
《ロシアはウクライナで米国のディープステートが資金提供した生物学研究所を爆撃しました。MSM(編集部注:既存のマスメディア)が言っていることを信じないでください!》
《今、この現在もウクライナ軍が、自国民を殺しロシア軍の所為にしている。フェイク、プロパガンダ。ウクライナのナチスによって訓練された子供兵士は、西側による寄付のサポートで参戦。世界には知られていない》
といった投稿などだ。
「私のところにも多くの『プーチンさんは悪くない』『ウクライナの大統領はディープステート(以下、DS)の操り人形です。嘘を記事にしないでください』というメッセージが来ています」
こう話すのは政治・社会分野での評論で著名な作家の古谷経衡氏(39)だ。
ウクライナ侵攻以降、WEB媒体での記事、メディアでの発言、Twitter上でプーチン大統領への批判を繰り広げている古谷氏のもとに、“DS信奉者” からの反論が続々と届いているという。
「彼らのほとんどが、元駐ウクライナ兼モルドバ大使の馬渕睦夫氏の『東ウクライナでね、ロシア人を虐殺してるっていうのが、ウクライナ危機の真実なんです』という主旨の発言をした動画を引用しています。
最近ではそれに加えて、オリバー・ストーン監督の『ウクライナ・オン・ファイヤー』が引き合いに出されることが多くなりました。
ストーン監督は高名な映画監督ですが、元来アメリカの国家権力によるさまざまな工作が戦争や紛争、事件等の背後にあり、根拠があいまいなままそれを事実とする作風があり、『ウクライナ・オン・ファイヤー』は完全にその系統の作品です。
彼らは必ず、アゾフ大隊(連隊)という言葉を使います。アゾフ大隊はもともとウクライナの白人至上主義者からなる部隊で、東ウクライナ(ドンバス地域)の親露派を抑制しましたが、国際的にはネオナチと見なされています。
しかしネオナチはウクライナだけでなく、ドイツにもポーランドにもフランスにもアメリカにも、そしてロシアにもいるのです。ごく少数のネオナチの存在をもって、その国全体がネオナチ国家だということになれば、世界中のほとんどがネオナチ国家になり、いくら侵略してもかまわないということになりますから、大変危険な言説です」
■陰謀論者が掲げる3つの主張
古谷氏は、こうした主張を「完全な “陰謀論” にあたる」と言う。
米国のドナルド・トランプ前大統領が使用し始めた「DS」や「ユダヤ系(ユダヤ・ロビー)」といった組織や一部のエリート(ネオコン)が、世界を裏側から支配している、というのが陰謀論者たちのおもな主張だ。
「私にメッセージを送ってくる人たちのプロフィールを丹念に追っていくと、思想的には、右翼の人も左翼の人も両方いるんです。感覚的には6対4で右翼の人がやや多いくらい。
いわゆる “ネトウヨ” とは真逆の思想を持っている人もたくさん含まれているのは興味深いところです。
彼らに共通するのは思想的な部分ではなく『特に社会科学(政治・社会)や歴史について基本的な知識が全然ないが、好奇心が強い』ということ。
そして『自分だけが世界の真実を知っている。まだ真実に気づいていない人々はバカだ』という自己肯定、自意識、優越感が強い場合も多い。もちろん、それはさまざまなコンプレックスの裏返しによるものです。
また、年齢層でいえば暇と時間を持て余した中高年が多い印象です。加えて、コロナ禍によるステイホーム期間が長引いたので、ネット接触時間が多くなったのも要因の一つだと思います。そうした人たちが、陰謀論を垂れ流す動画の餌食になっている印象です。
今回のウクライナ侵攻の場合は、『プーチン=善、ゼレンスキー=DSの操り人形』という図式らしく、DSの背後にはバイデンがおり、それと対抗しているのがトランプ前大統領である、と。だいたい形式が決まっている。前出の馬淵元大使も熱心なトランプ支持者です。
また、『コロナウイルスは人工兵器で、DSが人口調整のために仕組んだ陰謀だ。ワクチンも彼らDSの工作によるもので、絶対に打ってはいけない』と来る。
プーチン大統領はDSと戦う善、トランプ前大統領絶対支持、コロナ・ワクチン陰謀論。この3つの主張が今回、陰謀論者のなかで異口同音に言われています。不思議なことに彼らはまったく同じように、この3つの主張を繰り返します。
オカルト界隈ではすでに、ユダヤ陰謀論、イルミナティ陰謀論、フリーメイソン陰謀論は極めて古典的な陰謀論として知らてきました。特にユダヤ陰謀論は “シオン議定書” という偽書によって戦前に広がり、これをヒトラーが悪用してユダヤ人迫害の根拠としました。陰謀論は迫害や差別の根拠となる場合が多く、極めて危険です」
■なぜ “トンデモ” 陰謀論を信じるのか
一見すると “トンデモ” に思える陰謀論の数々――。それでも信じる人が多い理由について「反証できない」という特徴があげられる。「〇〇がないことを証明できないのであれば、〇〇は存在する」という「悪魔の証明」に近い状態だ。
「たとえば、『エリア51(米軍基地)には宇宙人がいる』という伝統的な陰謀論がありますが、米軍が軍事施設をすべて公開し、視察させることはあり得ないので、反証できません。
『地球には人類文明よりはるかに進んだ地底人がいる』という陰謀論も、実際にマントルの下を全部掘削することはできないので反証できません。
また、世界的に大ベストセラーになった『神々の指紋』を書いたグラハム・ハンコック氏の言説なども、広く見れば陰謀論の一種だと思います。
けれども、彼は確信犯的に『ピラミッドを造った超古代文明の本拠地は南極にある』と結論する。南極の氷を全部溶かさなければ、絶対に反証できないようにしているわけです。
ここまでであれば “笑える陰謀論” です。超古代文明や地底人が実在しようとしまいと、宇宙人がネバダ州にいようといまいと、害はありませんから。
しかし、いまDSを信じている人たちは、実際に罪のない人が大勢死んでいる戦争を正当化する目的で妄信しているのです。『DSの本拠地はどこなのか』と聞いても、『本拠地はなく、課題に応じて世界のどこかに集まっている』と言われれば、反証のしようがありません。
『なぜDSは秘密の組織なのに、それを一般人であるあなたが知っているのか』と聞いても、『ネットにだけは真実が存在する』と言われれば、いくら本を読めとか資料にあたれと言っても、彼らには何の効果もありません。そもそも読書習慣が薄く、資料読解の初歩的技術を知らないのです。
『ロシア軍の攻撃によってウクライナの街や建物が爆撃されている』という動画を見せても、『CNNのフェイクニュースでウクライナ軍の自作自演だ。なぜならCNNはDSの手先だから』と返します。民間人が虐殺されている事実を正当化しているのです。
こういう “笑えない陰謀論” が蔓延しているのですから、非常に悪質です。
彼ら陰謀論者は、何がファクトか、そうでないのかを判断できる基本的な知識や常識を持っていません。ウクライナ侵攻が始まって以来、とりわけこのカオスは進んでいます。
何を言っても聞く耳を持ちません。いくら事実を突きつけても無視します。そうした陰謀論者に対しては『それは陰謀論だ』と言い続け、さらなる陰謀論者が増えるのを抑止するしかありません」
■陰謀論は「遠くの出来事」に対して盛り上がる
トランプ前大統領が敗れたアメリカ大統領選挙。その後、2021年1月に起きた連邦議会議事堂襲撃事件は、例外はあるにせよ、主に「Qアノン」と呼ばれる陰謀論者によって引き起こされたとされる。
「そのときにトランプを支持する陰謀論者が “危ない暴徒” と世界中に知らされた。連邦議会襲撃事件では、これまでに700人以上が起訴されました。襲撃を呼びかけた主犯格らには重い禁固刑が言い渡され、現在でも裁判が進んでいる状況です。
これによって共和党内はもちろんのこと、共和党支持層でもトランプ支持は一気に低下したのは言うまでもありません。
米連邦議会襲撃事件の顛末をもって、日本のDS論者は叩きのめされました。2020年のバイデンVS.トランプの大統領選挙後、トランプが負けても日本のDS論者は『不正選挙』を唱え、さかんにトランプの逆転勝利を信じ続けましたが、襲撃事件が起きてからはさすがに沈静化の兆しが見えました。
コロナ禍でも、コロナ人工兵器陰謀論やワクチン陰謀論を唱える人は日本でもいましたが、そこまで大きな盛り上がりには欠けました。
しかし、2月24日のウクライナ侵攻をきっかけにDS論者が急速に力を巻き返してきた。
コロナ禍で陰謀論がそこまで大きく盛り上がらなかったのは、コロナの感染拡大が身近な話題だからです。自分がコロナに感染した、家族や友人がコロナに感染した、という経験があれば、さすがに人工兵器ではない、となる。後遺症の問題はあるにせよ、回復されている方が多いわけですから、人口調整というのはちょっと違うと思うに至る。
陰謀論というのは、身体的にも心理的にも遠くで起きている出来事に対して、非常に盛り上がりを見せる傾向にあります。
1980年に大平正芳首相が衆院選遊説中に倒れ、亡くなりました。これを暗殺だ、とする日本の陰謀論者はいません。なぜなら日本の総理大臣は身近な存在だからです。
ところが日本の陰謀論者は、ケネディ暗殺をオズワルドではなく、DSの仕業だと断定しています。日本から遠いテキサス州ダラスで起こったケネディ暗殺は、地理的にも心理的にも遠いので、陰謀論のターゲットになりやすいのです。
その点でも、ロシア軍によるウクライナ侵攻というのは、陰謀論者の格好の標的になってしまったと言えます。
さらに前述した『元駐ウクライナ兼モルドバ大使』という肩書を持つ馬渕氏の動画が『再評価』されて、よりいっそう拡大したのです。
陰謀論者は基礎的な知識がないので、何を言っているのかではなく、誰が言っているのかをより一層注目します。つまり肩書に影響されます。オリバー・ストーン監督もそうでしょう」
古谷氏は「陰謀論」には徹底的に批判を続けるしかないと繰り返し話す。
「再三再四言いましたが、陰謀論者に事実をもって反論しても無意味です。『それは陰謀論だ』と指摘し続けることが重要です。また、そうした陰謀論者を、肯定的な意味で取り上げることも極めて危険で絶対にやってはいけません。なぜなら、そうやって勢力を拡大させてサリン事件をやったのがオウム真理教だからです」
人類の思想にも大きな戦いのときが訪れている――。
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